黄昏通信社跡地処分推進室

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[追っかけっこ]

■『ポリス&ギャング』 アスキーPC-6001,1983(『AX-7』所収)
※ AX-7 については以前書いた『ブルースカイ』の回を参照。
32 キロバイト、と言われてどの程度のメモリ容量か見当がつくだろうか。日本語の、所謂2バイト文字のテキストに換算すれば 16384 文字で、400 字詰め原稿用紙ならおよそ 41 枚になる。でもそれはあくまでプレインテキストの話。ワープロソフトで文書を作れば、相当短いものでも 32KB の半分は占めるだろうし、少し長かったり書式に凝ったりすれば簡単にそれ以上の容量になってしまうだろう。それだけの容量で、カラーで(4色だったけど)BGM が鳴って(3声だったけど)スムーズに動く(半キャラクタずつだったけど)ゲームを作るのは、おそらく想像を絶する苦労であったに違いない。
ゲームは単純。主人公はギャングで、自動車を駆って銀行を襲いまくる($マークを取りまくる)。行く手を阻むはパトカーで、最初は1台だけど次から次に増えていく。真上から見下ろす視点で、フィールドの広さは1画面固定、車は直角あるいは真後ろにしか曲がれない。各面毎の銀行襲撃数ノルマを達成するとクリアとなり、次の面へ進む。パトカーに触れるか、燃料切れになるとミスで、ギャングは車を1台失う。3台失ったらゲームオーバーだ。
銀行は画面上に常にひとつ、ランダムな位置に現れて、それを取ると次の銀行がまたランダムな位置に現れる。ノルマは1面で6個で、以後1面ごとに3個ずつ増えていく。それとは別に、各面ごとに種類の異なるボーナスターゲットも出現した。これは一定時間ごとにやはりランダムな位置に現れるが、画面上にいくつでも同時に存在し得るのが銀行とは違うところ。ノルマには影響しないのだが、点数が銀行とは桁違いに高いのと、「NEC」やら「Login」やら愉快なターゲットだったのでつい狙いたくなった。
銀行にしても、ボーナスターゲットにしても、取るのが案外難しかった。完全に重ならないと取ることができないからだ。ギャングは車の大きさの半分(半キャラクタ)単位でしか曲がれないのだけど、結構スピードが速いので「半台分だけ動く」というのが中々できない。半台ずれた状態から1台分走ってしまってまた反対側に半台ずれて、というのをわたわた繰り返すことがしばしばあって、ゲームにドタバタした雰囲気を与えていた。これはどこまで狙ってやったのかわからないのだが、楽しい演出になっていたと思う。
パトカーは出現直後は動かず、しばらくしてからやおら走り出す。走り出してしばらくすると、次のパトカーがこれまたランダムな位置に現れる。そうしてどんどんどんどん増えて行く。一応ギャングを追っては来るものの、結構頭が悪いうえに何もないところであまり曲がらないという習性があって、真横をすり抜けられたりこちらが曲がっても真直ぐ進んだりはしょっちゅうだった。もっとも、あの画面の広さでまともに追って来られたら毎度あっという間に捕まっていたことだろう。
一応追跡を妨害する手段として「石を置く」というのがあって、ギャングはフィールドに置き石をできた(多分いくつでも)。これに当たるとパトカーはいずれかの方向に曲がるので、真後ろから追われている時には役に立ったが、その後も残り続けるため後後変なタイミングでパトカーが曲がってきてぶつかったりした。
3の倍数面はボーナスステージで、パトカーが全く動かない。数だけはどんどん増えて行くが動きのないフィールドで、ギャングだけが黙々と銀行とボーナスターゲットを襲って行く、ヘンテコな趣のあるステージだった。
上にも書いた通り、ゲームとしてはごく単純で、ユニークなアイデアがあるわけでもない。癖のある操作と妙な焦燥感と、極端に言えばそれだけだ。
でもこのゲームは凄く楽しかった。PSG 独特のよく響く音色で BGM が鳴りまくる中、画面狭しと何台ものパトカーがちょこまか駆け回る。しかも画面がちらついたり動きがもたついたりすることは殆どなかった。その中を鮮やかなハンドル捌きで走りぬける、ってのは、結構質の高い娯楽だったんだ。たぶん、当時は。
ずっと後になって、弟の友人が家に来た時に、このゲームを遊ばせたことがあったのを思い出す。その友人は結構なゲーム好きで、アクションゲームも割と得意だったんだけど、このゲームに関しては面白さが全くわからないみたいだった。当時は納得行かない思いだったが、今は理解できる。このゲームは原始的過ぎるし、ファミコン以降のゲームが提供する娯楽には流石に質の面で到底及ばない。郷愁抜きでこのゲームを評価するなら、そんなに高い点数はつけられない。
面白さと楽しさは時に分かちがたい。そしてそのどちらも、ゲームには必要な要素だ。高い水準で併せ持つことは難しく、実現できている作品は多くない。たった 32KB のメモリに両方を詰め込むのは、さぞかし困難な試みだったろう。それでもこのゲームは、グラフィックや音楽は貧弱で当たり前だった時代に、楽しさを提供するために明るい画面と BGM を実装した。その心意気は、今になってかえって胸をうつ。どんなに使えるメモリが増えたところで、面白くて楽しいゲームを作ることの難しさは、ちっとも変わっていないのだから。
最後にひとつ。このゲームは全 12 面だったのだが、普通にやっていると7面8面辺りがかなり高い壁で、10 面や 11 面ともなるとかなり無理ムードが漂っていた。なにしろ襲う銀行のノルマが 36 個(11 面では)だから、普通にやっていてもパトカーだらけになってしまう。なのに、12 面のノルマは 72 個なのだ。ボーナスステージだからパトカーは動かない。しかし、これまで殆ど全く気にすることがなかった燃料が、最後の最後で壁となって立ちはだかる。当時は時々チートで 12 面を遊んだりしていたものだが、何度挑んでもクリアすることはできなかった。あの面をクリアすることは可能だったのだろうか。

まあ結構前から書いてたわけだが、忙しい時に限って続きを書きたくなるのは世の常人の常九郎義経。古くてマイナーなゲームなんで、「おれが書かなければこのまま世の中から忘れ去られるかも知れんなあ」的な思いがあったりして、正直それはちょっと楽しい。