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[ワルシャワ条約機構の悲哀]心に残るゲームたち (29):『SUPER 大戦略』(カードゲーム)

■『SUPER 大戦略』 BNN/カードゲーム,1989
『シークレットエージェント』の回で、黒田幸弘氏を紹介する際に『SUPER 大戦略』カードゲームのデザイナーであることにちらっと触れた。そしてそのゲームは学年単位で盛り上がっていた、とも。学年単位というのは正直言い過ぎだが、それでもかなり流行ったゲームではあった。いつもカードゲームばっかりやってたおれたちオタククラスタの範疇を越えた盛り上がりであったことは確かだ、とは書いておこう。今回はその『SUPER 大戦略』を取り上げてみる。
ご存じの通り、もともと『大戦略』はパソコンのウォーシミュレーションゲームとして非常に有名で、様々な機種に移植され、あるいは続編や関連作品が発売されたビッグタイトルだ。このゲームはそのタイトルのひとつ『SUPER 大戦略』のカードゲーム版で、もともとは同タイトルのパソコン版に同梱されていたおまけのカードゲームが、あまりにも評判がよかったためにパッケージ版として発売されることになった、というような経緯を辿ったらしい(聞いた話で、詳しくは不明)。
とはいっても、あくまでもボードゲームではなくてカードゲームだから、ゲーム性は大きく異なっている。基本的には、ユニットをかき集めて、他のプレイヤーと戦争して、いちはやく規定の数だけ勝ったプレイヤーが勝利、という単純なルールだった。
プレイヤーは3〜6人で、各人がそれぞれ国/軍事機構を受け持つ。「アメリカ合衆国」「ソヴィエト連邦」「北大西洋条約機構」が基本となる3陣営で、3人の時はこの3つを用いる。4人になるとこれに「日本」が、5人になると「イスラエル」、6人になるとさらに「東側諸国」が加わる。
ゲームの進め方は至って単純。各プレイヤーは5枚ずつの手札でスタートし、山札から1枚引いて、手札が7枚を越えていたら7枚になるまで捨てる。これを順番に繰り返す。
引くと特定の行動を強制されるカードが2種類だけある。「貿易」を引いたプレイヤーは誰か他のプレイヤーの手札から1枚無作為に引き、手札に加えてから任意のカードをそのプレイヤーに返す。
「戦争/軍事援助」を引いたプレイヤーは、手札が6枚以下なら山札から3枚引くことができる。手札が7枚以上あれば、戦争だ。他の手札が7枚あるプレイヤーを誰でもいいからひとり選んで、戦争しなければならない。
戦争のルールも単純明快。手札にあるユニットカードから5枚選び、好きな順番で裏向きに並べて置く。端から順に1枚ずつ表向きにして、正面同士のユニットで順に対戦する。1対1の戦闘を5回行って、破壊されずに生き残ったユニットの多い方が戦争に勝ったことになる。もしいずれかのプレイヤーがユニットを4枚以下しか持っていなかった場合、多い方の余ったユニットは自動的に生き残ったことになる。
ユニットの区分は「飛行機」「戦車」「自走砲」の3種類で、各ユニットにはそれぞれの種類に対する攻撃力が設定されている。もうひとつ、防御力の数値があって、能力値はその4つだけ。
戦闘の際には、攻撃側ユニットの攻撃力から防御側ユニットの防御力を引いた数値を算出する。サイコロをふたつ振って、その数値以下を出せば防御側ユニットは破壊される。基本的には同時攻撃なので、破壊されてもされなくても、防御側と攻撃側を入れ替えて同じ手順をもう一度行う。
戦争が終わったら、破壊されたユニットはすべて捨て札にする。そして、破壊されなかったユニットのうち、自分の受け持つ陣営に所属していないユニットは、やはりすべて捨て札にする。それ以外のユニットを手札に戻せる。
ここで陣営の力の差が如実に出る。アメリカ合衆国であれば F-15、M1E1といった各ユニット種の最高のユニットを手札に戻せる。ソヴィエトはそれには及ばないが、それでも MiG-29 や T-72 などが手駒になる。
しかしイスラエル辺りになるとかなり厳しく、アメリカ合衆国の使える兵器のうち半分ぐらい、それも弱い方の半分しか使えない。オリジナルの兵器もクフィルぐらいだ。東側諸国になるともっと悲惨で、完全にソヴィエトのお下がりみたいなラインナップになってしまう。
というわけで、各陣営ではゲームの勝利に必要な戦争の勝ち数が違っている。アメリカ合衆国ソヴィエト連邦は勝利に戦争6勝が必要だが、北大西洋条約機構は5勝、日本は4勝でいい。イスラエルと東側諸国は3勝で勝利となる。
おのずと採るべき戦略も違ってくる。アメリカ合衆国やソヴィエトなら自陣営のユニットをなるべくたくさん集めて、勝つと同時に次の戦争に早く臨める態勢を整えなければいけないが、たとえば東側諸国では逆に自陣営のユニットに拘る意味が全くない。MiG-21 や T-62 なんて手札に戻る以前にまず戦闘で生き残らない。とにかく強いユニットをかき集めて、使い捨てて次の戦争に移る。戦争のたびにごっそり手札が減ってしまうから、7枚に戻すだけでも骨が折れる。
戦略が違うと書いたが、やるべきことは同じなのだ。強いユニットを集めること。勝てそうな相手に喧嘩を売ること。手札が7枚になったばかりの相手が一番弱いに決まっている。複数居たら、より弱い陣営を相手に選ぶこと。そしてそう思われるからこそ、弱い陣営にもチャンスがある。ノルマは少ないのに、戦争の機会は多いのだから。
少ない能力値でうまくユニットの個性を表し、削るべきところはばっさり削って、本来はボードゲームであるものを見事にカードゲームに落としこんだ。名作といっていい作品だと思う。
ただ、実際のところ、ゲームとして面白いのと同等かそれ以上に、ユニット同士の戦闘が楽しかった。仲間うちでは、ユニット3枚ずつを配って戦う「3枚戦」が、10 分休みで遊べることも手伝って、正式ルールのゲーム以上に流行ったものだった。そここそが、このゲームの本当に凄いところだったのかも知れない。

メモ

  • 以下追記。
  • というわけで、陣営は日本が一番しんどいです。オリジナルの兵器が 74 式戦車とか三菱 F-1 程度しかないのに、4勝しなければならないので。一応イーグルとかも使えるんだけどね。
  • 3枚戦のやり方を簡単に書いておく。各プレイヤーに3枚ずつカードを配って、それぞれユニットを裏向きに並べる。プレイヤーは「自分のユニットを1枚選ぶ」(裏向きのものを選んだ場合はここで表にする)→「任意のユニットを攻撃する」(裏向きのものを選んだ場合はここで表にする)→「どちらかが死ぬまで攻撃/反撃を繰り返す」という手順をひとりずつ順番に進めていき、最後の1台のユニットが残るまで繰り返す。単純で、戦術性も殆ど無いのだが、それでもとても楽しくて、10 分休みとかに延々とやっていた覚えがある。バランスがとれていた証だと思う。
    • 正式ルールでは殆ど戦場に現れすらしないような弱いユニットでも配られた以上は使わざるを得ず、そこも楽しかった点のひとつ。その点はマジックのパックウォーズに似ているようにも思う。パックウォーズやったことないけど。
  • ほんとは 12-05 の日付にしようと思っていたのだが、間違えてこの日にしてしまい、コメントまでついてしまったのでもうこのままにする。