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『オーロラになれなかった人のために』 スピッツ ユニバーサルJ UPCH-1183

オリジナルはポリドール:POCH-1133 で94年4月発売。
2枚目のアルバム『名前をつけてやる』の次に発売された、ホーンとストリングスを使ったちょっと実験的なミニアルバム。5曲入り。ぱっと耳にした感じは随分違う音だけど、よく聴いてみると実はかなりマサムネワールド全開だったりする。特にやばいのが「ナイフ」。

きみがこのナイフを握りしめるイメージを
毎日毎日浮かべながら過ごしてるよ

毎日毎日とは恐れ入る。「ラズベリー」と双璧を成すスピッツ二大変態ソングと言っても過言ではなかろう。そう思いながら聴くとサビのサバンナのくだりも浮かぶ情景が微妙に変わってくる。今更「首のにおい」*1なんてフレーズごときできゃあきゃあ言ってる場合じゃない。草野正宗はそんな地点は10年前に通過しているのだ。それはそれとして結構いい曲だったりする。
「田舎の生活」は『一期一会』に収録されて一気に名を上げた(当社比)。これは LOST IN TIME の選択とアレンジが絶妙だったとも言えるが、原曲もベル・アンド・セバスチャンばりの(ごめんこっちのが先だね)美しい曲で、この曲のためにこのCDを買ってもいいくらい*2だ。ただし歌詞は延々とマサムネ君(仮名)が田舎での「きみ」との暮らしを延々と妄想し続けるというもの。一歩間違えばキモイまである。
あまり語られることのない「海ねこ」も佳品。明らかにやらかしちゃったらしいのに後悔してない振りするマサムネ君(仮名)のカラ元気を、海風を思わせるビートに乗せる、アルバムで一番明るい曲。途中転調までしちゃう辺りでやけくそムードは最高潮に。
これらの曲が、無駄にオーケストラっぽい「魔法」と、過剰なほどにドラマチックに展開する「涙」に挟まれて全5曲。上の文章読んで聴いてみようと思う人はあんまり居ないかも知れないけど、スピッツ好きで聴いてない人には是非押さえて欲しい一枚だと思う。これはスピッツ好きとして、かなり本気で。

*1:「水色の街」

*2:この曲のためにこのCDを買ってもいい:オリジナルの2200円は難しかったが、新盤は1500円らしいので。