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スピードの絶対値ってなんなんだ(その4)

田中勝春騎手は、馬の能力を引き出すことに非常に長けた騎手です。
……端折り過ぎました。もう少し、順を追って説明しましょう。
これまで馬のスピードベクトル、ということで話を続けて来ましたが、本来はレースであれば馬と騎手と一体で考えるべきものであろうと思います。馬の能力には限界がありますから、騎手の能力は係数で表せるとするとわかりやすいかも知れません。常に馬の能力を全部発揮できる騎手なら「1」です。これが最高の数値です。半分しか引き出せない新人なら「0.5」。手が合うとか合わないとか、特定の戦法が得意な騎手とかも居ますから、必ずしも係数ひとつでぽんと表せるものでもないでしょうが、イメージとしてはいいところかと。
で、騎手の腕というのはある程度この係数で決まる、と言えると思うのですが、一方で必ずしもそれだけでもありません。何故なら、係数はあくまでスピードベクトルの絶対値を上下させるのであって、レースにおいて向きを決めるのには騎手が大きな役割を占めるからです。その2辺りで書いたように、レースによって勝利曲線の形は違います。そのどこら辺が一番凹んでいるか、そして自分の馬のスピードベクトルの向けられる方向のうち、どの向きが勝利曲線を突き抜けているのか(あるいは、一番近付いているのか)。そういうことを正確に見抜いて、その方向に人馬のスピードベクトルを正確に向けることができれば、それだけ勝利に近付くことができます。これもまた騎手の腕に属する部分でしょう。
他にもありそうなもんですが、とりあえずここでは騎手の腕はこの「係数」と「方向選択」のふたつに還元できる、という恐ろしく大胆な前提のもとに話をしようと思います。
ここで満を持して田中勝春の登場です。前振り長かった。
田中勝春は、このうち「係数」がかなり高い騎手であると筆者は考えています。最近はそう極端でもありませんが、以前は東京コースを非常に得意にしていました。それは、長い直線で馬を追う時に、高い能力を発揮させることができるからです。ちょっと大雑把過ぎますね。すみません。しかしレースぶりを観ていて、位置取りやコース取りが巧いと感じることがあんまり多い騎手ではない(←オブラート分厚過ぎ)というのには同意して頂けるのではないでしょうか。それでもそれなりに勝ちますし、乗っている馬はよく動くなあ、と感じることが多いです。「係数上位型」の代表的な騎手と位置付けたいと思います。勝春かよ。
逆に「方向選択上位型」の騎手も勿論居ます。が、これは代表を挙げるのが難しい。後述しますが、日本でははっきりこちらのタイプに属する騎手がリーディングジョッキーの上位に来ることが少ないからです。あ、でも上の代表が勝春なんだからそこまで上位じゃなくてもいいのか。じゃあ、江田照男を挙げておきましょう。そんなに馬がよく動くとは感じられないのですが、位置取りやペース判断が巧みで、鮮やかな勝ち方をしばしば見せてくれるタイプです。
前者、「係数上位型=勝春型」に属する騎手には、柴田善臣大先生、四位洋文武幸四郎吉田豊、などが居ます。どちらかと言えば安藤勝己もこちらに入るでしょう。
後者、「方向選択上位型=江田照型」に属する騎手には、後藤浩輝佐藤哲三芹沢純一大西直宏、などが居ます。どちらかと言えば、岡部幸雄石崎隆之はこちらに入ります。え、っと、ここらへん全く個人的な感覚で、異論もあるかと思いますが、適当に脳内で分類替えしたりしつつ読んで下さい。
え? 我らがJRAリーディングジョッキー様はどちらなのかって?
安直極まりない意見ですけど、「両方」としか言い様がないですよね。唸らされるほど巧みな位置取りやコース取りを見せてくれる一方で、特に後方にためた時などには驚くほどよく馬を動かしてきます。両方が非常に高い水準にあるからこそ、次元の違うペースで勝ち星を量産できるのでしょう。
その後に続く者としては一応横山典弘を挙げておきます。昨年辺りからまた、あの1年だけ関東リーディングを取った年の冴えを取り戻しつつあるように感じられます。期待も込めて「両方型」に分類しておこうと思います。
結構長くなっちゃったんで、以下は次回で。最終回になる予定です。