黄昏通信社跡地処分推進室

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『航路』(上・下) コニー・ウィリス/大森望訳 ヴィレッジ・ブックス,2004 ISBN:4789724387,ISBN:4789724395

文庫に落ちて久しかったのだが全然気付いてなかった。コニー・ウィリスは『ドゥームズデイ・ブック』だけ読んでいて、面白かったんだけどいささかクソ長いきらいがあって、謎を引っ張っているというよりは引き伸ばしている感じがしていまいち好きになりきれなかったのだが、この文庫版の装丁を本屋で見かけて、結構かっこよかったので思わず手に取ってしまった。
それで読んでみたのだが、これはめちゃめちゃ面白い。大きな謎をセットする力技、そこに少しずつ迫っていく技法、やや類型的ながら魅力的な登場人物、飽きさせない細かなドタバタ、数々のキーワードが噛み合わさって行くさま、それが揃いかけたところで起こる思いがけない展開。全てが高い水準にあって、これだけ分厚い上下巻を一気に読ませる力がある。
肝心の謎の内容も、一意に答が出るものではあり得ないのに説得力があり、それでいて非常に大胆なものになっている。何を書いてもねたばれになってしまいそうで具体的なことが書けないのがもどかしいが、それほどおれはこの作品の面白さを殺いでしまうのが惜しい。まぎれもない「サイエンス・フィクション」だが、多くの人の心に届くものを間違いなく持っている作品。ヒロインのメイジーもおそろしく素敵。面白い小説に飢えている人、読んでみてください。