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『サマータイムマシンブルース』 本広克行監督 ROBOTS/東芝エンタテイメント,2005 

リンダリンダリンダ』を観た時に予告編を観て、面白そうだったので観に行ってみたのだが期待を裏切らない出来。原作はヨーロッパ企画という劇団の芝居で、今回脚本はその芝居を書いた人が書いたのだそうだ。
SF的には使い古されているテーマなんだけど、きっちりとどたばたして面白い。シチュエイション・コメディの常道として「観客と作中人物の知識のずれ」があるが、この映画ではタイムパラドックスという概念が観客にとってある程度既知であるという前提で、そこを「ずれ」に持ってきているのが面白いのだと思う。もちろん過不足ない色付けのされたキャラクターたち、リモコンを軸にしてぐるぐると円を描く時の流れ、どこか懐かしいどうしようもない夏の日々、と全体としても様々によく出来ている。この手のコメディを見慣れている人にはほぼ寸分違わず先の展開は読めると思うけど、それでも十二分に面白い。「リモコン割引」で 1000 円で観賞することも可能なことまで考慮すればまじおすすめ。です。
好きなシーンはコーラがこぼれるところ。無駄な高速度撮影による超滑らかなスローモーションとそれに合わせた超大仰なSEがたまらなく面白い。見ているだけで笑ってしまった。あと電池を交換するところも好き。「電池は替えるのかよ!」みたいな。強いて言えばカメラの挿話は余計だったかなあと思わなくも無いものの、伝えるという意味ではあれぐらいでちょうどいいのかも知れぬ。
観終わってからTさんと「どうやって舞台でやったんだろう」という話になって、今回の映画公開に合わせた再演が終了してしまったことを本気で悔やむ。一度観てみたかった。
本広克行はこれからも面白い芝居を低予算で映画にする試みは続けて行きたいとのことで、今作の水準が保てるようなら大いに期待していいと思う。なにしろ世の中には本当に佃煮にするほど劇団と芝居はあふれているのだから(それはその世界を知らない人には決して想像もつかないだろう)。きっと人知れず埋もれて行く原石もあることはあるに違いなくて。あとは誰がどうやって拾い上げるか、もちろんそれが唯一にして最大の問題なわけだけど、それに細いながらもひとつの道筋をつけた映画なんじゃないかと思う。ごめんちょっと大げさすぎるな。