黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

カー消し戦記 (2)

セリカダブルエックスはそこそこ強い車だった。
車の強さは大きさと重心の低さと底面の摩擦係数で決まる。単純に大きくて重い車は強い。ただ、暗黙のうちに「適合するサイズ」は決まっていて、どでかい車を持ってきて無敵を誇る、なんて真似は誰もしなかったし、おそらく許容もされなかっただろう。
重くても腰高だと、低い車に打たれた時には面白いほどよく転がる。横転したり、さかさまになったりした車は質量に対して設置面が小さくなって、全く粘ることができない。そうなってしまえば、ルールはバトルロイヤルだったから、自分の番が来て正しい向きに戻れるまでには落とされていることを覚悟しなければならなかった。フォルクスワーゲンの弱いことと言ったら、本当に面白いほどだった。
摩擦は適当な数値があるようだった。当然だが、あまり滑り過ぎる車は問題外だ。だが、逆に摩擦が強すぎても駄目だった。転がりやすくなってしまうからだ。上述した通り、転んだ車はもろい。転がり始めてしまえば、強い摩擦も殆ど何の役にも立たない。
つまり、重くて平たくてそこそこ滑る車が一番強い、ということになる。
当時流通していたカー消しは、(1) で述べた袋売りのゾク車シリーズと、ばら売りのラメの塗装が施された車たちに大別された。ゾク車シリーズは標準的な大きさだったが、摩擦の度合いは理想的。ラメの方は様々な大きさで、かなり図体がでかいものも売っていたのだが、転倒した時にもの凄くよく滑ってしまうという致命的な弱点を抱えていた。屋根の塗装を削り落とす、という荒っぽい改造も試されたが、今度は摩擦が大きすぎて、結局転倒したら後がなかった。
ゾク車タイプの摩擦とラメタイプの図体を併せ持つ車がもっとも強い。それは明白だった。だがそういう車は当時小学校の近所では売っていなかった。欲しければ、なんらかの手段でそれを手に入れた奴から奪い取るしかない。今思えばある種理想的な状況が、偶然に現出していたのだった。
持たざる者は今ある車で頑張るしかない。突き詰めると、充分な発射台のパワーとコントロールの腕があれば、ラメ車よりはゾク車の方が有利だった。ある程度以上平たくてそこそこの図体がある車。ダブルエックスは比較的その条件をよく満たしていた。おれはたまたまソリューションらしきものに達していたのだった。
次回へ続く。