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『グラン・ヴァカンス――廃園の天使(1)』 飛浩隆,2002 ハヤカワSFシリーズJコレクション  ISBN:415208443X

『象られた力』を読んで以来ずっとこの作品を本屋で探していたのだけど、流石になかなか見つからず、先日ようやく新宿南口の紀伊国屋で発見した。あれな、あるとあるでへこむな。当然初版だし。
しかしこれは(ごごごごご)滅茶滅茶面白かった。設定自体は「うち捨てられた仮想リゾート」が舞台で、当人ももはやいささか古い感もあると書いていたように殊更目新しいものではないのだが、その世界の美しさは息を呑むほど。登場人物は基本的にAIなのだけど、それがAIであるがゆえに可能であること、一方で人間として設定されていても不思議でないことが入り混じって描かれていて、それはサイエンス・フィクションという枠組みの持つ強みだろう。おそらく科学的に緻密な設定があるわけではないのだろうが、最低限のルールが常に意識されているためにさほど危なげは感じられない。
ストーリーも序盤は特異な世界で繰り広げられるおなじみのシチュエイション、なんだけどきちんと話が走っていて面白いし、中盤以降守りが破綻し始めてからは予想を越える方へ越える方へ変化していく。最終的には、もちろん三部作の一部目なのだから終わってしまうことはないわけだが、とりあえずの決着というところには辿り着いている。
作者はノートで書く。


ただ、清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。飛にとってSFとはそのような文芸だからである。
そもその心がけだけで既に違うところに居る感はあるが、そう心がけて本当にその通り書けるというのは一体どういう能力なのだろう。清新で、美しくて、残酷で、面白い物語。続きを待つ。