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『かもめ食堂』 荻上直子監督 メディア・スーツ,2006

群ようこが映画のために書き下ろした小説を基に、フィンランドで撮影された映画。監督は『バーバー吉野』で知られる荻上直子(おぎがみなおこ。エフェクトで出たら気をつけよう!)。
日本人女性がフィンランドでおにぎりをメインメニューにした日本食堂を開いてる、という、まあそれだけといえばそれだけの話。最初は客がまるで来ないが、そのうち少しずつ人が来始める。起きる小さな事件、関わる人の心の動き。ドラマチックなことは何もないけれど、とても楽しく快い。
主人公の3人の女性を演じる役者たちがみんな芸達者で素晴らしい。それぞれにわけありのようなのだけど、それほど踏み込んでは描かれず、そんなに深刻でもなくそこに居る、というたたずまい。それでいてキャラクターはきちんと立った、居そうで居ないあるいは居なさそうで居る人たち。
不思議なのは、キャスティングはどの段階で行われたのだろう、ということ。小林聡美はまだしも(これはキャラクターがオーソドックスだったというだけのことで、とてもキュートだったことは書いておく)、片桐はいりもたいまさこは他の役者だったら全然違う人になってしまったことだろう。特にもたいまさこは反則寸前で素晴らしかった。もし役が先にあったのだとしたらまさにベストチョイスだが、多分にこの人が役を作ってしまう部分もあるのだろう。
たびたび登場する食べ物や飲み物も、どれもみんなおいしそうで、観た誰もが書いているけど観終わった後になにか(できれば定食)が食べたくなることは間違いない。料理がこの映画のもうひとつの主人公だと言えるかも知れない。
小さくて、地味だけど、いい映画。姉の言葉を借りれば、定食屋の見当をつけてから観に行こう。