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[終わりなきゲーム]

■『ギガンデス』 イーストテクノロジー/アーケード,1990


かつて仲間うちの溜まり場になっていたが、その頃はすっかり寂れてしまっていたゲーセンの、入り口の側にひっそりとこのゲームは置いてあった。夏だったと記憶している。このゲームも既に旬を過ぎかけていて、自分以外にやっている奴を見ることは稀だった。50 円のかき氷を買って店に入り、台の側に突っ立ったままぼんやりデモ画面を見ながら全部食べる。そして、やおら席に着いて 50 円玉を投入する。お決まりのように、そうしていた。


横スクロールのシューティングゲームで、操作は8方向レバーとボタンふたつ。左のボタンは「ショット」で、右のボタンには「砲塔回転」が割り当てられていた。
砲塔について説明しておこう。
自機は「ROUND-37」の名の通り丸く、最初は砲塔が1本、しかも「ノーマルショット」しかついていない。アイテムを取ることによって砲塔が増えるのだが、その砲塔はアイテムに触れた方向に着く。例えばアイテムを下から取れば自機の上側に触れることになるから、砲塔は上に着く。この要領で上下左右の最大4本まで砲塔を着けることができる。
砲塔には「ノーマルショット」「ミサイル」「レーザー」「クラッシャーボール」の4種類あり、それぞれ得手不得手がかなりはっきりしている。同じ種類の砲塔は同時に2本までしか着けられない。
また、補助アイテムが2種類「パワーアップ」と「ウェーブ」とあるのだが、これらも砲塔に対して着くのが面白いところで、どの砲塔をパワーアップさせるかも戦術の一環になっていた。


「砲塔回転」ボタンを押すと、着いている砲塔全てが時計回りに 90 度回る。長押しすることで、上下の砲塔だけを斜めに向けることもできる。つまり、状況に応じて使う武器を選ぶ、あるいは敵の多い方向に強い砲塔を向ける、などの戦い方ができた。このシステムがこのゲームの肝だった。
アイテムによって武器が切り替えられたり、武器切り替えのボタンがついていたりするゲームはある。また、左右への撃ち分けができたり、方向転換ができたりするゲームも、それほど多くはないがある。その延長上にあるシステムだから、全く斬新なアイデアというわけではない。だけど、四方向に同時に攻撃できることも含めて、独特の面白さと楽しさを提供することができていた。


当時のシューティングゲームには比較的珍しく、やられるとその場から復活となる。面白いのは、砲塔が全てそのまま残ることだ。だから丸腰同然で放り出されるということはない。だが逆に、ひとたび変な風に砲塔を着けてしまうとその面の間はずっとそれで進まなければならない。
同じ種類の砲塔が2本までしか着かない制限があるから、攻撃範囲の広いミサイルを向かい合う位置に着けるのが定石だった。これがひとたび直角についてしまうと随分戦いづらくなってしまう。しかもそれを向かい合う位置に直そうと思えば、一旦片方のミサイルを潰してから別のミサイルを取らなければならない。適切な位置に砲塔を着けることや、パワーアップを取ることは、時には残機を守るよりも重要であることがあった。


ゲームの進行自体は比較的オーソドックスだった。それなりに個性のある面が全部で8つ、それぞれの最後にボスが待ち受けていて、それを倒せば面クリアとなる。
ユニークだったのは、各々の面が「第○話」と表記されることだ。ストーリーが語られるデモなどは一切なく、ただ各面に話数とサブタイトルがついているだけなのだが、「ROUND-37 発進!」に始まって「友よ静かに眠れ」で終わる並びから、ぼんやりと物語が想像できた。


斬新なアイデアや美しいグラフィックを備えているわけでもなく、はっきり地味なゲームであったと思う。知らないとどうにもならないところが多少ある(つまり所謂「覚えゲー」的な要素がある)のもマイナスだった。だがそれ以外は、手抜きなくデザインされた敵、ゲームを喰ってしまうことなく雰囲気を作っている音楽、ふたつのボタンで過不足なくシステムと噛み合っている操作系、難しすぎず簡単過ぎない難度調整、とおおよその面で水準以上の完成度だった。そういうゲームは案外少ない。小さなメーカーからひっそり発売された無名のゲームだったが、いいゲームだったと言えると思う。


このゲームには所謂エンディングがない。最後のボスを倒すと、ボスは爆発しながら沈んで行き、画面はフェイドアウトしてそのまま「GAME OVER」の文字が重なって表示される。それだけだ。どういう意図があったのかは知らない。あるいは納期に間に合わなくて入れられなかったのかも知れない。だけど、考えてみるとこれで充分じゃないだろうか。プレイヤーに届けるべき物語は、全部ゲームの中で語られているのだから。