黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『新教養主義宣言』 山形浩生 晶文社,1999 ISBN:9784794964151

今更ながら読了。色々な意味で今更ではある。しかし面白い。感じたことや考えたことを、ひたすらわかりやすく伝えることを目指して作者は文章を書き飛ばしている(あえてこの表現)。その原動力になってるのは作者の場合「あまりにわかってない奴が多いことに対するいらだち」なので、攻撃性を帯びた文章になったり挑発的な文体になったりする、のだと思う。
プロローグが少し冗長だけど挑発力が抜群で面白い。例えば冒頭の挑発ひとつとってみても、マーティン・ガードナーとガイア理論は知ってるけど脱構築文学批評となったらもうわからない。*1 これが当たり前に通じるレヴェルが「教養」なのだとしたら、なるほど確かに敵わないだろうなという気にはさせられる。
その他では序盤の経済に関わる話がいい。情報をいくら集積しても人間の判断速度はある点から先には速くならない、という文章なんて、ロジックを積み上げておいてから最後の方で突然仮説にぽんと渡してしまうんだけど、それでも説得力があって面白い。こういうのって、なんだろう。後半の書評とかもとてもいいんだけど、少しとっ散らかっている印象はあって、「教養」のとっかかりにするにはちょっと厳しいかなという感じはした。
これを読んだだけであまり何かが得られた気になってはいけないのだろうが、おれの中にある何者かを駆り立てる力はあるなあと感じた。つまりおれもなにもわかってない、ということなんだろうね。

*1:余談ながら、2007 年の今この挑発を再現するとすれば誰の名前と何の理論を使うべきか、ってことを考えるのは面白いかも知れない。残念ながらぱっとは思いつかないけど。