黄昏通信社跡地処分推進室

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『One Way』 絶対安全ピン 作・演出/黒田圭

麻疹騒ぎで現場は大混乱だったらしいが、どうにか上演にこぎつけたそうだ。
「どこまでも続いている一本道」「前には進めるが後ろには決して戻れない」「なぜか歩数がカウントされていて数字がどんどん減って行く」という不思議な世界で人がひたすらに歩き続ける話。奇妙な密室に奇妙なルールで人がひたすら出口を目指す、というのは『CUBE』を想起させるが(実際意識はしたそうな)、あれほどどろどろした展開にはならない。脱落者は出るのだけど、何故かなんとなくまあ仕方ないかという気分になって次に進む。
ところが途中でギャグ要員みたいに出てくるギアッチョとシモーネの場合は事情が違って、このふたりはそもそもデートでここに来ている(らしい)。だからおたがいが一番大事で、それ以外には別にあんまり興味がない。そのふたりが現れることでこの閉鎖空間に奇妙なリアリティみたいなものが生じる。ふたりは他のメンバーとなりゆきで同行して、やがて別れてしまう。その切なさが物語を必要以上の緊張から救っている。
役者もこのふたりが上手かったなあと思う。黒田さんが久しぶりにかなり出番の多い役で、なかなかよかった。妻が「存在感のコントロールが上手い」と言っていたのだけど、なるほど、そういうことなのかも。放っておいても居ることはできる。今回はどう「居ない」かってのが必要な芝居だったんだろう。(役者が少ないことと動きが少ないことと関係がありそう。)
武藤さんはとにかく全部演じてしまう、ところが凄いなあと。飛び道具みたいな役でなんだかんだ言って中々大変かと思うのだけど。もともと凄く前に出るタイプでもないだけに、その辺りもちょうどよかったのかも知れない。
舞台はストイックで中々好き。予算とか時間とかの制約があったのかも知れんけど、それはそれで。
音楽は「サティとサティっぽく作った曲」だったとのこと。簡単にいうのは凄いよな。
道の行き着く果てに、ひとつのゴールらしきものがある。入るも自由入らぬも自由、だけど来た道は決して戻れない。ワンウェイ、一方通行、あるいは一本の道。面白かった。次回は珍しく決まっていて 11 月、台本も既にできているとのこと。楽しみにしてます。