黄昏通信社跡地処分推進室

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一問多答は 134 !

今回の話は LANDO 氏の記事にインスパイアされています。


やはり分岐系に関しては相応に「正解の選択肢4つ以上で、ハズレ選択肢がそれより少ない」みたいな出題が結構多いんじゃないでしょうか、という気はしています。
(引用略)
例えば6つの選択肢で4アタリ2ハズレとかでも、少なからずどーんが決まる率は上がるでしょうし、或いは5アタリ3ハズレとかもあったりするのかなぁとは想像するのですが、実際どうなのかなぁ。

「いや、でもほんとひどかったんだって」
休憩時間になるなりレオンは教壇に上がって教卓を占拠すると、先ほど中断された話を再開した。文字通り口角泡を飛ばす勢いで主張する。
「まったくわからん一問多答でおれ以外全員 1234 で、しかもそれが正解だったんだぜ」
「あなた以外全員には簡単な問題だったのかも知れないわよ」
側の席に座ったシャロンが応じた。声は冷ややかだったが、口許に浮かべた笑みはむしろ楽しそうだ。
「いや、まあ、そうかも知んねーんだけどさ」
レオンは早くも失速する。勝負には拘るが、根本的なところでは自分の至らなさに対する自覚を失わないのがこの男のいいところだ。おそらく本人はそれは自覚していない。
「でも一問多答ってやっぱ 1234 多くないか? どうなんだカイル」
「さあ……数えていませんのでなんとも……」
カイルは穏やかな表情を崩さずに答えた。本気なのか本気でないのかさっぱりわからない。
「確率的には 1/16 ……ってことはないよな」
「全部 1/2 とすればそうなるけど、でもそういうことじゃないよね多分」
ルキアが口を挟むが前進はほぼゼロ。
「あら、16 通りじゃなかったかしら?」「そうだけど確率はそうじゃねえって言ってるんだよ」
面白いので黙って見ていると、案の定全く建設的な発言は聞かれず、よくて堂々巡りという有様だった。レオンとシャロンを中心に議論はまたたく間に混迷の度合いを増していった。
と、席に座ったまま目を閉じて考え事にふけっている風だったマラリヤが、いきなりすっと立ち上がった。わいわい言っていたレオンたちが一斉にそちらを見る。マラリヤはその視線を意識する様子もなく、机の間を通ってホワイトボードへ向かった。
「確率は、」
急に静かになってしまったみんなに背を向けたまま、話し始めながら白板に書きつける。「その問題の選ぶべき選択肢の数と外すべき選択肢の数で決まる」
そう言って書いた文字は何故か『アタリ』と『ハズレ』だった。
「たとえば選ぶ方が4つと外れの方が2つの問題があるとすると」
『アタリ:4 ハズレ:2』
「回答は 16 通りあるけど、ここでは個数だけが問題になるから5種類だけ書くわ。0個から4個の場合それぞれについて確率が出せる。ただし、一応何通りずつあるかだけは知っておく必要がある。これはあとで説明するけど」
『0個:1通り 1個:4通り 2個:6通り 3個:4通り 4個:1通り』
「それで、選択肢6つから4つを選ぶやり方が何通りあるかだけど、これは 6C4 = 6C2 だから (6*5)/(2*1) で 15 通り。ここまではいいわよね」
マラリヤはレオンを横目で見て訊いた。
「お……おう。大丈夫だ」
「外れがふたつしかないから、0個や1個が正解になる場合はひとつもないわ。それで、2個が正解になるときは、当たり4個の中からふたつを選ぶやり方をまず数える。4C2 だから、(4*3)/(2*1) で、6通り。それから外れ2個の中からふたつを選ぶやり方を数える。これは 2C1 だから1通りしかない。全部では 6*1 で、6通りになる。」
先ほどの『0個:1通り……』というのの下に、『0 0 6』と書く。
「3個が正解になるときも同じ要領でいい。当たり4個の中から3つを選ぶのが 4C3 だから4通り、外れ2個の中から1個を選ぶのが 2C1 で2通り。4*2 で8通りになる」
『0 0 6 8』
「4個が正解になるときは、当たり4個から4個を選ぶから1通りしかない。」
『0 0 6 8 1』
「全部で 15 通りだから、15 で割れば確率が出せる。0個と1個はもちろん 0%、2個が 40%、3個が約 53.33%、4個が約 6.66% ということになるわね。つまり出現する確率は3個が一番多くなる」
「え、こんなに3個の時が多くなるの?」
ルキアが早とちりして口走った。マラリヤはほとんど反応もせず淡々と続ける。
「ここで求めたいのは出現する確率ではなくて、勘で押した時に正解できる確率だから、3個を選ぶ方法が何通りあるかを考えなくてはいけないの。これは上に書いた通り」
『3個:4通り』という文字を指差して、
「4通りだから、53.33.../4 = 13.33...% というのが、勘で押した時の正解率。4個押した時は 6.66...% だから、ちょうど倍になるわね。2個押した時は 40/6 = 6.66...% になる。これは4個と同じ確率」
押す数0個:1通り1個:4通り2個:6通り3個:4通り4個:1通り
何通りか00681
出現頻度0.00%0.00%40.00%53.33%6.66%
勘正解率0.00%0.00%6.66%13.33%6.66%

アタリが4個ちょうどしかないのならこんなものだろう、と僕は内心思った。感覚的には、アタリが多くなるほど全部押しで正解できる確率は上がりそうだ。
マラリヤは続ける。
「次に、アタリが5個でハズレが3個の問題を考えてみるわ。全部で8個だから、4個選ぶ方法は 8C4 = (8*7*6*5)/(4*3*2*1) = 70 通り」
「0個が正解になるのはハズレが3個だからあり得ない。1個が正解になる場合はある。アタリ5個のうちから1個を選ぶから 5C1、ハズレ3個のうちから3個を選んで 3C3 。つまり、5*1 で5通りになるわ。」
『0 5』とホワイトボードに書く。
だいぶ調子が出てきたようで、だんだん説明が手短になっていく。心なしか口調もいきいきしてきた気がしないでもない。
「2個が正解になる場合は 5C2*3C2 = (5*4)/(2*1)*3 = 30 通り。3個が正解になるのは 5C3*3C1 = (5*4)/(2*1)*3 = 30 通り。4個が正解になるのは 5C4*3C0 = 5通り。」
『0 5 30 30 5』
「これを 70 で割るとシェアが求められて、それを何通りあるかで割ればランダムに押したときの正解率が出せる。まとめて書くとこうなる」
押す数0個:1通り1個:4通り2個:6通り3個:4通り4個:1通り
何通りか0530305
出現頻度0.00%7.14%42.86%42.86%7.14%
勘正解率0.00%1.79%7.14%10.71%7.14%
これは若干意外と僕には思えた。グラフが少し平坦になっただけでピークの位置は変わっていない。全部押しで正解できる確率自体は先ほどの例に比べると随分上がっているけど。
「この調子でいくつか表にしてみる。アタリは 4〜7、ハズレは 2〜6 ぐらいを取ってみよう。問題になるのは全部勘で押したときの正解率だから、それだけ書く」
アタリ4444455555
ハズレ2345623456
0.00%0.00%1.42%3.96%7.14%0.00%0.00%0.79%2.38%4.54%
1コ押し0.00%2.85%5.71%7.93%9.52%0.00%1.78%3.96%5.95%7.57%
2コ押し6.66%8.57%8.57%7.93%7.14%4.76%7.14%7.93%7.93%7.57%
3コ押し13.33%8.57%5.71%3.96%2.85%14.28%10.71%7.93%5.95%4.54%
4コ押し6.66%2.85%1.42%0.79%0.47%14.28%7.14%3.96%2.38%1.51%
アタリ6666677777
ハズレ2345623456
0.00%0.00%0.47%1.51%3.03%0.00%0.00%0.30%1.01%2.09%
1コ押し0.00%1.19%2.85%4.54%6.06%0.00%0.83%2.12%3.53%4.89%
2コ押し3.57%5.95%7.14%7.57%7.57%2.77%5.00%6.36%7.07%7.34%
3コ押し14.28%11.90%9.52%7.57%6.06%13.88%12.50%10.60%8.83%7.34%
4コ押し21.42%11.90%7.14%4.54%3.03%27.77%16.66%10.60%7.07%4.89%

「赤く塗ったところが、一番正解率の高いところ。これでパターンが見えてくるでしょう」
マラリヤはそこで一旦説明を止めて、今度はルキアの方をじっと見た。
「……え? あたし?!」
ルキアは困惑の色を隠さず、「あ……、えっと、その赤い部分の階段の形は同じだよね……つまり……」
かいだんのかたちはおなじ
マラリヤは口に出した。「悪くないわ。つまり、どういうこと?」
「ごめん、これ以上は無理。シャロン、タッチ」
ルキアは隣に来ていたシャロンの掌を平手で叩いた。
「なんで私なのよ……」
シャロンは文句を言いながらも、少し考えながら「……形が同じということは、“アタリ”の数と“ハズレ”の数の差が問題になるということでしょう」
「素晴らしい」 表情こそ変わらないが、わずかに嬉しそうな声。「そこまでわかれば、ほとんどわかったようなものよね」
「いや、さっぱりわからないんだけど……」
ルキアが言うのにマラリヤは応じず、
「結論を書くわ。アタリの数を T、ハズレの数を F とするとこういうことがわかる」

・T=F の時、2個押しが一番確率が高い。
・T=F+1 の時、2個押しと3個押しが同率になる。
・T=F+3 の時、3個押しと4個押しが同率になる。
・T>F+3 の時、4個押しが他の全てより率が高くなる。

「証明は簡単だから省くけど、必要ならセリオスが教えてくれるからそっちに聞いて」
マラリヤはいきなり僕の方を向き、そこで初めて薄く笑みを浮かべた。
「……」
僕は何か言い返そうと思ったが、適切なことを何も考えつかなかった。
「じゃあ、結局は実装されてる問題にアタリとハズレがいくつずつ入ってるかってことによるわけか、」
レオンはそこまで口に出して、「てか、すげえ当たり前だよなそれ。なに言ってるんだおれは」
「でも、当たりの方が1個から3個多い時は3つ押しが一番いい、てのはずいぶん生々しい数字だと思いますよ。そのぐらいの割合の問題って多そうじゃないですか?」
カイルが指摘する。
「わかんないときは 134! みたいな」
ルキアは言ってから、「いや、でもやっぱり4通りあるってのがよくないよ。迷いが生じるもん。やっぱり 1234 の方がしっくり来るよ」
「まあ、確率を知った上でなら、好きにすればいいんじゃない」
マラリヤは小さく肩をすくめた。「……クイズに王道無し。知識を増やす以上に強くなる方法なんて、ひとつもないんだから」