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夏が来れば思い出す

高校野球で一死二塁からタッチアップとか内野ゴロとかで二死三塁になったりすると、いつもおれはある漫画のあるシーンを思い出す。
その漫画ってのは『ドカベン』で、明訓高校が中(あたる)ってピッチャーと対戦した試合。その高校は完全に中のワンマンチームでエースで1番(打順が一番多く回ってくるので1番)、しかも傲慢キャラで「山田くんには絶対打たれない秘策があります」とか事前に言っている。
その試合でも中が先頭打者本塁打でいきなり1点先制して、そこから中はひたすら山田を敬遠する。走者がいようがブーイングを浴びようがお構い無し。実際球も速くて好い投手なので、山田以外には打たれない。初回の1点がだんだん明訓に重くのしかかってくる。で、山田の3回目の打順は無死走者無し、当然敬遠されて出塁する。
ここで明訓は送りバントで一死二塁とする。しかしそこからは6番石毛7番仲根、外野手はみんな前に出てくるし山田の足ではヒット1本で二塁からは帰ってこられない。さてどうする、と思っていると石毛も送りバントして二死三塁にする。打順は7番仲根。もちろんここまでノーヒット。あ、ドカベンって数人の中心人物以外は結構「その他」みたいな人がずっとレギュラー、というわりといい加減なところがあって、この人も典型的なその他さんです。左打ちって以外特徴一切無し。
監督(土井垣?)はバットを短く持て、振り遅れるな、と言って仲根を打席に送り出す。相手も高校生なんだし仲根はわりとタイミングが合ってる。3巡目ならなんとかしてくれるかも知れない。それに、走者二塁と三塁では全然違うのだ。失策でもポテンヒットでも内野安打でも、暴投でもパスボールでも振り逃げでも点が入る。
そして仲根は中と対決する。1球目は空振り。やっぱり速い。しかし2球目はなんとか喰らいつく。三塁線に鋭い打球が転がるが惜しくもファウル。でもとにかく当てた。そして3球目――
ていうね。やっぱり1試合とか1点とかの相対的な重さって、比べる事自体ちょっとナンセンスなのかもしれないけど、プロ野球より高校野球の方がでかかったりする。だからこそ、二塁と三塁の違いも大きいんだよね。選手同士の力の差も、もしかするとかなり大きくて、スーパースターと文字通りの無名の選手が、でも同じグラウンドに立って戦っている。上に書いたシーンは、なんかそういったことが試合の1イニングに全部凝縮されて詰め込まれてるような気がするのだ。『ドカベン』てやっぱり凄い漫画だったと思う。