黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『屈折リーベ』 西川魯介 白泉社ジェッツコミックス,2001 ISBN:9784592135982

屈折リーベ再評価、ということで久々に読み返してみた。眼鏡の女の子以外に興味はない、と言い切る主人公秋保*1と、恋愛に縁がなく過ごしてきたヒロイン篠奈との恋をどたばたと描く、西川魯介の代表作。今は亡き少年キャプテンで 1996 年に連載されていた。
「メガネフェチ」というのはフェティシズムの中でも比較的ポピュラーな部類だが(顔に装着するものだからだと思う)、ある意味では極北でもある。眼鏡はその人の身体の部分ですらないからだ。もちろん「眼鏡は顔の一部です」というコピーを引くまでもなく人相と眼鏡はある程度不可分のものであるが、本編中にも伊達眼鏡の登場するシーンが2回もあるように「着脱可能な属性」であることには変わりがない。
秋保の思いは一途なのに、篠奈はそれが「着脱可能な属性に対する偏愛」という形をとっていることに対して思い悩む。ただでさえ、誰かを好きになった時には必ず不安がつきまとう。その人がたとえ自分を好きだと言ってくれたとしても、それが何故なのかは好きになった方でさえ大抵説明できないし、その好きになった部分が他の誰かと交換可能でないということに確信を持つのはなかなか難しいからだ。
その恋愛ものの王道の懊悩を、メガネフェチの主人公を配することで違った角度から拡大してみせた、というのがこの作品のみもふたもない説明になるだろうか。
とはいえ、この作品の面白さは主人公の莫迦莫迦しいほどの眼鏡に対する偏愛に支えられている部分も小さくない。


「前々から思ってたんスけど 『女のメガネは三割下がる』っていうじゃないスか」
「そういわれておるな」
「とんでもないっスよね 事実無根もはなはだしい!『ガス室はなかった』ってのと同じくらい犯罪的言説スよ」
こんな話をデート中にしてしまう主人公。正直恋愛とか関係無しに不安にならざるを得ない気もする。
ともあれ、過不足のない長さで描きたいことを力一杯描けている、変化球系恋愛漫画の佳作。ラブコメが好きな人も、眼鏡の女の子が好きな人も、未読の方は一度読まれてみてはいかがだろうか。

*1:秋保:あきう。学問エフェクトでも出るので憶えておこう。