黄昏通信社跡地処分推進室

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今度こそ、さよなら、ジョニー。

試合終了後、この時期には異例の引退セレモニーが行われた。マリーンズ一筋 13 年、チームの暗黒の時期をエースとして支え続けた偉大なる投手、黒木知宏の。
花束贈呈のときにふたりの娘さんたちが最後に渡す役だったのだが、上の娘さんがマウンドの黒木のところまで歩いていって花束を渡してから泣き始めてしまった。それを見てなんだかぐっと来てしまった。たぶんこの子はお父さんの全盛期を知らないだろう。記憶にあるお父さんはずっと怪我と戦い続けていたに違いない。
もう少し大きくなればわかることだろうけど、書いておこう。
君のお父さんより多くの勝ち星を挙げた投手は、日本プロ野球史上多くはないけど少なからず居る。
君のお父さんよりも速い球やよく曲がる球を投げられる投手も、また少なくない。
だけど、君のお父さんほどファンに愛されて、信頼されて、復活を待たれた投手なんて、滅多にいない。そういうピッチャーは、ひとつのチームに何十年にひとり現れるかどうかなんだ。こうしてセレモニーを開かれて、オープン戦なのに入りきれないほどのファンが詰めかけて、試合が終わってもほとんど誰も席を立たない。これがどれほど凄いことなのか、今の君にはわからないかも知れない。
だから、どうか今日のことを憶えておいてほしいと思う。暮れなずむ空と、満員の球場と、少し冷たい風と、大歓声や満場の拍手と、そういったもろもろを。そしてその中で、黒木知宏という投手が、渾身のボールを投じる姿を。