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■『ゲイングランド』 セガ/アーケード,1988
地味なゲームだった。
ゲイングランド』はセガのシステム 24 という基板上で作られている。当時一般的だった 15kHz のモニタより解像度の高い 24kHz のモニタを用いるのが特長のシステム基板で、つまりグラフィックの性能が高い。普通はそれを「同じ大きさの物をより細部にわたって描く」方向に活かすものだが、このゲームをデザインした人は「従来と同じ細かさのものはより小さく描くことができる」と考えた。*1
ゲームシステムを大雑把に分類すれば固定画面のシューティングゲーム、となる。主人公は人間(か人間のようなもの)で、投擲武器、銃器、魔法などが弾として飛び交う。敵を全滅させるか、あるいは手持ちのキャラクタを全員出口から脱出させれば1面クリアとなる。
ステージ内に高低差があるのが特徴で、そのため視点はトップビューではなく手前上空から斜めに俯瞰した恰好になっている。こちらのキャラクタは地上の高さしか移動することができないのに対し、敵は丘や建物の上といった高所から、あるいは壕や池の中といった低所から攻撃して来たりする。
これだけのものを固定画面で描こうとすれば、従来のモニタでは手に余る。かなり粗い絵になることは避けられなかっただろう。かといって画面がスクロールしたのではゲームそのものが成り立たない(これについては後述する)。24kHz のモニタがあればこそ、ある程度の水準であれだけの細かさの絵を描けたのだし、ひいてはこのゲームが実現できたのだとも言える。
手持ちのキャラクタは最初3人だが、各面に捕虜がいて、救出することで手持ちのキャラクタが増えてゆく。キャラクタには 20 種類のヴァリエーションがあり、足が速い、連射が効く、弾速が高い、射程が長い、火力が高い、などそれぞれにさまざまな取り柄がある。もちろん、足が速いキャラクタは射程が短かったり、弾速が高いキャラクタは高いところに攻撃できなかったり、とそれぞれにデメリットも持っている。さまざまな取り柄と欠点を持ち合わせたキャラクタを上手く使いわけながら、各ステージを攻略していく。
この戦術の組み立てが面白かった。序盤はともかく、中盤以降からはひとりのキャラクタでは手に余る面が増えていく。例えば最初に弓矢使いを出して高いところの敵を倒し、しかるのちにライフルを出して地上の敵を一掃する、といった具合に。そうしようと思えば、最初のキャラクタは出口から脱出させなければならない。そうするとついでに捕虜を助けていこうか、といった感じで各面の展開を組み立てていく。この組み立てが不可欠だから、前述した通り画面は固定でなければならなかった。
20 人もキャラクタが居れば正解はひとつではない。プレイヤーによって合う戦法と合わない戦法がある。十人十色の攻略法が存在することもこのゲームの魅力のひとつだった。
ふたり同時プレイの面白さも特筆すべきところだろう。多くのシューティングゲームが、単にちょっと強くなった敵を相手に2機の主人公が並んで進むだけのモードを「協力プレイ」と呼んでいるのに対し、ゲイングランドではふたりそれぞれにキャラクタを使えることが飛躍的に戦術の幅を広げてくれる。
しかもそれは単純に簡単になるだけではない。2人用では敵も敵弾も増えるし、状況によってはパートナーのフォローもしなければならない。さらに、「戦術の組み立て」が難しくなる。先述した各面の展開は面が始まる前に想定するものだが、それをふたりで完全に共有することは予め決めておかない限り難しい。その上、面の途中でどちらかが死んだ場合、あるいはそもそもその面に使うはずだったキャラクタが既に死んでいる場合など、戦術は常に臨機応変に修正されなければならない。その上、プレイヤーによって得意な状況やキャラクタが違ったり、それによって攻略の方針が違ったりするために、大げさに言えば価値観をすり合わせながらゲームを進めて行かなければならない。これが面白いところであり、それ以上に難しいところでもある。
かようにこのゲームの2人プレイは素晴らしくよくできていた。どこかで「真の二人協力プレイを実現した唯一のゲーム」と評されているのを見たことがある。この評価は協力プレイに要求される水準を高く見積もり過ぎているきらいはあるものの、一面の真実ではあったと思う。
キャラクタが小さいために見た目の派手さがなく、他のゲームとスピードや当たり判定の感覚が異なるため、はっきり言ってかなりとっつきにくいゲームではあった。実際に稼動当初の売り上げは総じて大してよくなかったようだ。にもかかわらず場所によっては結構長くゲームセンターに置かれていて、根強いファンがいることが想像された。未だに置かれているゲームセンターすらあるほどだ。
最後にひとつ。
このゲームには、とても有名な、結構ひどいバグがある。
ゲイングランドは各面で常に「その面の残っている敵の数」をカウントしていて、それが画面右上に表示されている。敵を全滅させれば面クリア、というルールであることと、面のスタート時には出現しておらず途中から登場する伏兵的な敵が居るためだ。ところが大詰めのラウンド 4-8 (全 40 面中 38 面目)に至って、出口直前に設置されているレーザー砲台を倒しても敵の数のカウントが減らないという不具合があるのだ。おかげでプレイヤーはなるべく早く最低限の敵を倒して、時間の残っている限りキャラクタを出口に逃がさなければならない。そして上手く逃げられたキャラクタたちだけで、残りの2面に挑まなければならない。
もう少し早い面にこれがあったら、少なくともゲーム自体のバランスを大きく崩していただろう。しかしあと2面だから、なんとかその2面に必要なキャラクタを脱出させればクリアはできる。逆に、4面後半まで順調に進めば必要なキャラクタは全部揃っていて、本来ならクリアもほぼ安泰な状況になっているのに、ここで否応無しに厳しい状況に追い込まれるのだ。
バグは所詮、バグに過ぎない。しかし製作者は「バグだろうがなんだろうが作り手の手を離れた瞬間に仕様」と言い放っている。この不具合が終盤の展開を熱くしていることは間違いない。しかも、このゲームの設定は「戦闘シミュレータ内で狂ったマスターシステムを相手に戦う」というものなのだ。神バグ、という表現は明らかにおかしいけど、神がかった不具合、というほかないように思う。

*1:のだと思っていたのだが、実際はシステム 24 ではでかいキャラクターが動かせず、「細かいのに小さいキャラ」を使わざるを得なかったそうだ。