黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

中山大障害回顧

大竹柵で落馬した馬が誰だかを見届けてから双眼鏡を逆回りの三四角の方へ振ると、先ほどまで独走だったマルカラスカルの姿が見えなかった。何が起きたのかわからなかった。後続馬群をなんとか視野に入れると、何故かその外からマルカラスカルがするすると上がっていった。どこに行っていたのかその時点ではわからなかったが、とにかくマルカラスカルは流石に馬券には絡まないだろうと思った。
勝ったのはキングジョイ。好位勢を見る形で進み、直線入口ではやや離される苦しい状況だったが、最後の直線も半ばを過ぎてからよく伸びてきっちり差し切った。昨年の2着と今年の成績がフロックでないことを存分に示した。現6歳世代は中山大障害4連覇で、しかも全て違う馬が勝利したことになる。
2着はメルシーエイタイム。ここ4年で3回目の2着となった。相変わらず安定した飛越と折り合いで危なげのないレースをしたのだが、最後の最後にキングジョイに差されてしまった。殆ど展開の綾としか言いようがなく、仕方ないところだろう。障害でここまで息長く活躍できる馬は珍しい。来年以降も下の世代に立ちはだかる壁になって欲しい。
3着にはテイエムトッパズレが入った。プレヴューで「大駆けがあるが好走する展開が思い浮かばない」と書いたのは、この馬の好走は先行した時に集中していて、強力な先行馬マルカラスカルとそれをマークする各馬、という展開では利を得る可能性が低いと考えていたからだ。だが、実際にはマルカラスカルが自滅して、逸走以後は勝てる見込みのない逃げになり、にもかかわらずマークは集めたままという状況になった。先行したこの馬にとっては最良の展開だったと思う。それでもメルシーエイタイムを交わせなかったのが現時点での限界ではある。
4着はスプリングゲントだった。テイエムトッパズレと同様の有利はあったものの、まる2年以上ぶりの障害レース、しかも初めての大障害コースで苦もなく先頭集団について行ったのだから流石にセンスが並ではない。無事なら再び重賞を勝てる日が来ても不思議はないと思う。その無事であることが一番難しいのが屈腱炎なのだが。
圧倒的な1番人気に支持されたマルカラスカルは5着に終わった。大竹柵の後、逆回りの四角で左に曲がらずに直進し、殆ど外柵のあたりまですっ飛んで行くロスがあった。その後ようやく方向転換して、加速してハナを奪い返したものの、やはり流石に不利が大き過ぎた。「あれがなければ勝っていた」と西谷は言うが、逸走以後は他馬がペースを上げる必要を感じなかったからスローで運んだためにあれだけ粘れたわけで(勝ち時計が遅いのもそれに起因する)、他方前半の大逃げは明らかに他馬に「競りかけたら潰れる」と思わせることに成功していて、あのままマイペースで逃げ切った可能性も少なからずあると思う。要するになんとも言えない。ただ、これが予想できたわけではないにしろなにかしらある種の危うさを常に持った馬ではあり、それが形をとったのが昨年の負けであり今年の負けであると言える。力は確かだし圧勝することもあるだろうが、今後も似たようなことはつきまとうだろう。「障害調教再審査(平地調教を含む)」というちょっと見慣れない処分が下された。
以下は簡単に。やや離された6着にオープンガーデンが入った。この展開で後方から差を詰めたのだから悪くない。今後が楽しみになったと言えよう。テイエムエースが7着。前半ついて行けず、不本意なレースになってしまった。巻き返しを期待したい。クールジョイは9着。まあこんなものか。エイシンニーザンは完走した中ではしんがりに終わった。春のグランドジャンプでもいいところがなく、やはり中山が苦手なのだろう。改めて挑んできた気概は大いに買いたい。バローネフォンテンは落馬。事前に書いたようにもう競走馬としては終わっている。幸い怪我はなかったようなので、引退させるべきと思う。ユウタービスケットは2周目5号障害(逆四角の後)飛越の着地時に骨折、安楽殺処分となった。
現6歳世代がまたしても力を見せつける結果となった。上位数頭とそれ以外の馬たちの力に少し開きがある現状で、マルカラスカルの逸走を除けば順当な結果と言ってさしつかえないだろう。障害では明け7歳はまだ衰える年齢ではなく、順調ならこの記録はまだ伸びるかも知れない。それでもテイエムエース、テイエムトッパズレ、オープンガーデン、と下の世代からも少しずつ芽は出つつあることも見てとれた。彼らの成長にも期待したい。