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[おれたちゃ義賊(まあ、たぶん)]心に残るゲームたち (22):『ボナンザブラザーズ』

■『ボナンザブラザーズ』 セガ/アーケード,1989
泥棒はゲームの題材として結構ポピュラーで、と書いてみてから具体的なタイトルを考えてみたんだけど、いにしえの『万引き少年ゲーム』と『ルパン三世』ぐらいしか思いつかなかった。あ、名作『マッピー』があった、と思ったけど、あれ、盗品を取り戻しに行くゲームなんだよね……。ゲーム内容としては泥棒ゲーと呼んで差し支えないと思うのだが。
さておき、『ボナンザブラザーズ』はれっきとした泥棒ゲーだ。のっぽのモボとちびのロボの義賊兄弟 (?) が、あこぎな連中の拠点に忍び込んで色々頂いちゃう、というのが大ざっぱな内容。しかし忍び込む先がデパートとか宝石店とかで、麻酔銃とはいえバンバン撃ってガードマンを昏倒させまくっているので、端からは単なる強盗傷害にしか見えなかった。
操作は8方向レバーとボタンふたつ。レバーでそれぞれの方向に移動、左のボタンでショット(麻酔銃)、右のボタンでジャンプ、といういたってオーソドックスな操作系統になっている。
基本的に建物内が舞台で、ほぼサイドヴューだがわずかに斜め俯瞰になっている。各フロアは手前と奥の2ラインから構成されていて、プレイヤーも敵も真横にしか弾を撃てないため、違うラインに居る相手を攻撃することはできない。
画面は非常に横長(もちろんモニタ自体は普通で、表示範囲が横に長い)で、かなり広い幅を見通せるが、他のフロアはほとんどうかがうことができない。このゲームはこっそり動いて敵の隙をつく、あるいは先手を打つことが重要なので、左右は広く見渡せる必要がある。一方で別のフロアまで見えてしまうと、文字通り先が見えてしまってかえって面白くなくなってしまう。複数のフロアをまたぐ仕掛けや、フロアを超えて追ってくる敵は殆ど無かったが、その辺は割り切って作っていたのだろう。
二人同時プレイの時は、同一画面上ではなく、ふたりそれぞれに画面が表示されて、別々の行動をとることができた。横長の画面が縦にふたつ並んでいるさまは非常にユニークで、あまり類を見ないシステムだった。
グラフィックそのものも印象深かった。ほとんどのオブジェクトが直方体、三角柱、円錐、球といった単純な立体で描かれており、つるっとした質感で統一されていて、どこかおもちゃめいた可愛さだった。今でこそポリゴンが一般的になっているからそういう絵柄にも目新しさは無いが、当時はもちろんドット絵でちまちま描かれていて、これはセンスがいいと感じたものだった。雑誌「ゲーメスト」で毎年行われている読者投票の「ゲーメスト大賞」のグラフィック部門でもそこそこ票数を集めていた、と記憶している。
建物内にはターゲット、つまり盗むべき品物がいくつかあって、それを全て盗んでからゴールにたどり着くとラウンドクリアとなる。画面上には建物の断面図が常に表示されていて、自分の現在地と残っているターゲットの位置が示されているので、よほど慌てなければどこに行けばいいかわからなくなることはない。これは泥棒ゲーにしては優しい仕様だが、おそらくそういうことがストレスになることを嫌ったのだろう。もちろん「面スタート時に表示される地図を暗記してプラン通りに進む」というのもひとつの面白さにはなり得る。でも、このゲームの本質的な面白さにとってはむしろマイナスだと判断したのだろう。
というわけで、このゲームの面白さは局地的なガードマンとの攻防に濃縮されている。
ガードマンには何種類かいて、それぞれに特徴があるが、どれも単体ではそれほど強くない。この手のゲームにありがちなように、基本的に愚鈍で、自分の持ち場の仕事しかせず、それすらもあまり真剣にはこなしていない。でも流石にこちらを見つけたら追いかけてくるし、ホイッスルを吹いたりもする。笛の音を聞きつければ、周りのガードマンも寄ってくる。
中でも熱かったのは、空色のガードマンとの銃撃戦だ。空色は常に一箇所にとどまって左右をきょろきょろ見ているだけなのだが、ひとたびこちらを認めるやホイッスルも吹かずにいきなり発砲してきて、奥のラインに移動して物陰に隠れる。その後は、手前のラインに顔を出しては発砲してすぐに隠れる、というのを繰り返す。一対一ならさほど強い相手ではないのだが、二対一だったり他の敵と同時に出てきたりするとかなり手こずった。
楯を持った敵(機動隊と呼んでいた)も厄介だった。楯を構えたまま持ち場を往復していて、こちらの麻酔銃を防いでしまう。うまく反対を向いているところを気絶させても、次に起き上がる時には最後に撃たれた方向に楯を構えながら復帰するので、動き出すより早く弾を通さなくなってしまう。攻撃に転じる時も反応が早く、白い方はためらわずに銃を撃ってくるし、青い方はホイッスルを鳴らしてから警棒を振りかざして突進してくる。この機動隊と他の敵の組み合わされている場所が、攻略する上でも難所になっていることが多かった。
面を重ねるにつれてガードマンの配置は厚く、巧妙になり、お互いの隙を補いあうようになっていく。残機が一切増えないゲームなので、12 面をクリアするまで死ねるのはたった2回だけ。逆に乱数の要素は殆どないので、1面から順にひとつひとつクリアする方法を確立していけば、確実に先に進めるようになる。とはいえ後半面になるとなかなか盤石なパターンは作りづらく、おれなんかのレベルだと結構アドリブで抜けるシーンも多くて、結局どれだけいいプレイが「つながる」かみたいなところはあった。
それでもどうにか1コインでクリアできたから、いちおう適正な範疇の難度であったとは言えるように思う。クリアした回は最終の 12 面までノーミスで辿り着きながら1階中央の通路で往復1回ずつ死んでしまい、残りのフロアを死なずにクリアしたのを漠然と憶えている。
最後にひとつ。
最終面である 12 面のあるフロアに、それまでの面には登場しなかった小さな罠が仕掛けられている。初めてそこに辿り着いたとき、おれはその存在にすら気付かずに引っかかってしまい、罠にかかったモボがガードマンに止めを刺されるのを呆然と見ていた。その後しばらくして再びそのフロアに立っておれは愕然とした。どうしてこれに気付かなかったんだろう。まったく信じがたい思いだった。その悔しさと、引っかかったときの頭が真っ白になった感覚は、今でも忘れられない。

メモ

  • このゲームもシステム 24(ゲイングランドの回を参照)をシステム基板に用いている。言われてみると、縦に二画面並べられるほどの解像度の割に、大きなキャラクターは登場しない。
  • 完成度の高さの割には不遇なゲームだった、というイメージだが、それでもメガドライブに移植されているし、後には SEGA AGES シリーズの『イチニのタントアールとボナンザブラザーズ』というタイトルでプレステ2にも移植されている。
  • しかしそのプレステ2版はアーケードに比べて圧倒的に難しい。敵がどこまでも追ってくるし、機動隊を縦移動中に撃っても楯で防がれてしまう。殆ど別のゲームと言っていいほどの難度だった。

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