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『空を飛んだ少年』 ルーディ・ラッカー著/黒丸尚訳 新潮文庫,1987 ISBN:9784102243022

ラッカー十番勝負その6。
前作『時空の支配者』に続いて新潮文庫から出版された、ラッカーの SF 作品としては二冊目の邦訳だが、こちらは前作と違って早川には移れず、結果的にそのまま絶版になっている。
作者4冊目の transreal 小説で、今回は高校生から大学生にかけての時期を描いている。享楽的で退廃的な青春時代が若者らしい虚無的なトーンに覆われていてちょっと読みづらい。が、ある程度年月を経ているから、痛い部分はあるにしても「へえ、当時はこんなだったのね」的な発見は結構あるし、結構むちゃやってるなー、という面白さもある。
メインプロットは「中国の五人の兄弟」で、主人公とこのプロットとの関わりそのものがストーリーになっている。作者自身の感じていた疎外感をベースにした、ということのようだけど、そうだとするとちょっと後半の展開がやや自己肯定的にも感じられる。それでも、最後の決断と行動の描き方は潔くさわやかで、読後感としては悪くなかった。
しかし総じて、transreal ものの方が出来がよくないような傾向はあるな。