黄昏通信社跡地処分推進室

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架空世界を舞台にした話を書くときは言葉の選び方にちょっと苦労する。なにしろ日常語彙には外来語が入り込みまくっているわけだが、その架空世界にはそれらの外国はない。例えば「ドラゴン」という言葉を使っていいものだろうか。それはこの世界の英国の言葉ではないだろうか。それとも、架空世界のことといえどもこの世界の言葉で書いているのだから、それが外来語であっても構わないだろうか。
ネットの噂によると((C)電脳コイル)、トールキン爺は指輪物語の翻訳に際して、意味を持っている固有名詞は意味ごと訳してくれ、というような注文をつけていたらしい。Middle-Earth が中つ国になっていたり strider が馳夫さんになっていたりするのはそういう事情らしく、その注文の意図はすごくよくわかる。中つ国は当の中つ国では決して「Middle-Earth」とは呼ばれていないのだから、「ミドルアース」になるのはおかしい。
まあそれはやや極端な例だが、一般的にもやはりあまり頻繁に外来語を使うと若干の違和感が生じるように思う。例えば以前書いたドラクエ2の話で「蜻蛉蜥蜴」という言葉を使ったのだけど、あれは「リザードフライ」という呼び名がどうも引っかかったからだ。ドラクエの話をする時にしか使わない言葉だから、違和感が際だって感じられるのかも知れない。
では全く片仮名言葉を使わないのか、というと、もちろんそんなことはない。「パン」とか「スープ」とかは普通に使っている。
実際、徹底的に片仮名言葉を排していくと、それはそれでいささか堅苦しく、今書かれる文章としては少し不自然な印象を与えることになる。浅羽莢子による『ソーサリー!』シリーズの新訳(創土社)が好例だ。もちろん旧訳の印象が強いからというのもあるだろうが、片仮名言葉を使わずに日本語を表記することには本質的な難しさと不自然さがあるのだろう。上記の「蜻蛉蜥蜴」も、それはそれでおかしい*1のは否めない。
極端なことを言えば、漢字の熟語の何割かはそもそも外来語、ではある。でもそれらは既に日本語の一部になっている。片仮名言葉であっても、もはやそうなっている言葉はあると思う。
だから結局は「外来語だから駄目」というような機械的な判断だけでは上手くいかなくて、どれほど消化されていて文脈的に違和感がない言葉か、ということを評価しなければならない。そしてそれは、推敲しながら文章を書いていれば、ある程度以上は当然行っていることでもある。それこそ日本語と外来語とを問わず。
当たり前すぎる結論で面白くもなんともないが、こういう意識を片隅に置くだけでもできるものは違ってくるだろうと思う。それが労力に見合うものかどうかは、保証できないけど。

*1:それはそれでおかしい:だいたいリザードフライなんだから蜻蛉蠅じゃねーの、という突っ込みには筆者は反論を持たない。素で間違えていて、しかも今回この文章書くまで間違ってるの気づいてなかった。←これ二重に間違ってるな。「蜥蜴蝿」だ。2014-02-04 追記。