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『ガガガガ 暴虐外道無法地帯』(1〜4巻) 山下ユタカ 2002〜2007,講談社/アフタヌーンKC

関東地方某所の湾岸に存する「キカイ島」。もともと化学工場等が並んでいた島は、しかしある時期以後見捨てられ、チンピラたちのたむろする無法地帯と化していた。にもかかわらず一部の工場だけは未だに稼動して高品質のドラッグを精製している。ところがある時海底トンネルを挟んだ対岸の“陸”(オカ)こと「朧燈地区」へ向かった島の売人が3日経っても戻らず、拳銃使い・ベニマルは売人の持っていたドラッグを取り戻すために謎の助っ人・レーイチとともに朧燈地区へ送り込まれる。ところが折しも朧燈地区のパワーバランスが大きく動く最中にベニマルたちは飛び込んでしまう。
ひたすら暴力とその予感だけが濃密に描かれ続ける作品で、登場人物は殆どロクデナシばかり、正義などどこにも存在せず、ただ欲と思惑と衝動だけで物語がドライヴされる。しかしその暴力の描かれ方にはそれこそ切られるような迫力があり、暴力の描かれないシーンではそれがいつ現れるのかという緊張感に満ちている。そして格闘シーンの伝わりやすさが尋常ではない。説明的な表現は殆どないのに、スピード感のある戦いの状況が眼前で繰り広げられているかのように呑みこめる。とにかくめちゃめちゃ上手いのだ。特に3巻に収録されているおでん屋での格闘は圧巻だ。ここだけでもこの漫画を読む価値があるとすら言えると思う。
ストーリーに目新しいところはなく、特に主人公の行動はいささか行き当たりばったりなところがあるのだが、入り組んだ対立を設定しておいて終盤にかけて主要な人物が一ヶ所に収斂していく展開はテンションが上がる。このあとどうなるのか実に気になるのだが、単行本では今のところ結末までを読むことができない。
この漫画はもともとはヤングマガジンで 2002 年に連載が開始されて、それが単行本1巻部分にあたり、3年の休載を挟んだ後アフタヌーンに移って 2005〜2007 年に単行本でいうと2〜4巻分が連載されていた。その後は携帯電話向け漫画配信サイトに移り、はっきりしない情報ではもう1冊分ぐらい続いた後にどうも完結したらしいのだが、その分は単行本化されていない。非常にもやもやするが流石に配信に手を出すのはためらわれて今に到っている。
アフタヌーンでの連載当時はアフタヌーン自体を買ったり買わなかったりだったのだが、この漫画が載っていたのは憶えている。ストーリーがわからないなりに追っていて、特におでん屋の格闘に入る直前の話が最高に面白かったのはずっと忘れられなかった(単行本3巻の冒頭)。今回あらためて読み直したがやはりくそ面白く、読んでる間中にやにやしっぱなしだった。
先日兄の家を訪れたらたまたま部屋の隅に4冊まとめて積んであったのを見かけて、まとめて借りて読むことができたのだが、おそらく兄が居なければ一生読むこともなかっただろう。感謝している。最終5巻が単行本になることを祈っている。

あと、少しずれる話。「斬り介とジョニー 四百九十九人斬り」(榎本俊二)を読んだ時も思ったことなのだけど、これほどまでに濃密に暴力を描けるメディアってもしかすると漫画しかないかも知れんと思う。実写ってもちろん迫力あるんだが、例えばたぶん手足の切断とか目玉飛び出るとかは苦手だ(あと『ガガガガ』には頻出するぼこされて腫れ上がった顔とか)。漫画にも出版コードってのがあって好き勝手やれるわけではないが、そういうヴァリエーションの広さは画力がある限り認められるみたいなところがあるように思う。そして、それにはある種の力があるんだよね。作者がどこまで意識してやってたのかわからないけど、そういう点でも人をひきつける力がある漫画ではあったかな。