黄昏通信社跡地処分推進室

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僕としたことが、飛行船の日を忘れていた。仕事を切り上げて外に出ると、ちょうど日が沈んだばかりで灰色と紫色のあいだの色に染まった空に大きな白い楕円形が浮かんでいた。船体表面に施された LED イルミネイションのおかげで船は内側から光を発しているみたいにみえた。ずっと離れたところからでも読めるだろうくらい大きな字で企業ロゴが書かれている。僕は足をはやめた。たぶん〈港〉に上るのは間に合わないだろうけど、まだ飛行船は旧電波塔へ向かってゆっくりながらずずずと動いている。出航までにはあるいは真下辺りまで行けるかもしれない。僕は横断歩道をわたり、地下鉄の駅の入り口でもうひと目と思い振り返って飛行船を見あげた。空は先ほどより深い紫になっていて、船の輝きがより鮮やかに目に届いた。10秒近くも僕は立ち止まってしまった。近付くのはあきらめてここからずっと見ていようかとすら一瞬考えたが、すぐに振り払って下り階段に向き直った。幅の広い階段をかけおりて改札をくぐりながら、脳裏にはすでに間近に見上げるまばゆいほどの船腹が浮かんでいる。





実際に飛行船が夜間飛行しているのを見かけて、それに触発されて書いた。夜飛んでいるところを初めて見たので。