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『都市と都市』 チャイナ・ミエヴィル 日暮雅通訳,2011 ISBN:9784150118358

もう読んだのも少し前になってしまったが、これは面白かった。おそらくは東欧の、地理的には重なり合う位置に存在するふたつの架空の都市国家ベジェルとウル・コーマ。ある地区はベジェルに、ある地区はウル・コーマに属し、なかにはそれが入り交じるクロスハッチ地区と呼ばれる部分もある。同じ通りにそれぞれの都市で別々の名前がつけられ、交通機関もそれぞれに独立して発達している。人々は自分の属さない都市を見ることすら許されず、ましてそこかしこにある境界を越えて相手の都市に入ることは論外だ。そういった行為は〈ブリーチ〉行為と呼ばれ、〈ブリーチ〉行為が発生すればそれをどこかから見ていた〈ブリーチ〉たちがたちどころにそれを収拾してしまう。その二重国家に暮らす人々はそんなとても奇妙な慣習にも適応して暮らしているが、ある日ベジェルで変死体が発見される。殺人と判明したその事件を捜査するボルル警部補は、やがてふたつの都市をまたぐ謎に巻き込まれてゆく。
とにかくこのイカれた設定だけで半分勝ちで、それをある程度以上の説得力を持って執拗に描けた時点で著者の目的は果たされていると言える。その上でこの舞台でしか展開することのできないストーリイであったのなら大傑作となり得たのだろうが、個人的にはそこまでではなかったかなと思う。しかし、うまく謎を引っ張って物語を展開し、ここだけはこの舞台でなければ決して成立しなかったクライマックスまで運ぶ手腕は見事で、最後の場面で彼に手を出せないことが(おそらく大多数の)読者にとっては当然の感覚として受け止められる、それこそは物語の持つ力であり、著者の力量のあかしであると思う。