黄昏通信社跡地処分推進室

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名前をつけてやる・パート2

警視庁が「振り込め詐欺」の新名称を公募していて、公募の結果「母さん助けて詐欺」という名前に決まったらしい、というニュースが少し前に流れた。いかにも垢抜けないネーミングで言いやすいとも言えず、インターネットではどちらかというと叩かれているのを多く見たように思う。
しかし改名すること自体は個人的には評価すべきだと思っている。警視庁の中の人がネーミングの重要性というものを理解している証だからだ。
電話を利用した身内なりすまし詐欺は「オレオレ詐欺」という呼称で一気に有名になった。「オレオレ詐欺」は簡潔にして当を得た素晴らしいネーミングだったけれど、当初の手口が知れ渡ってみるといかにも牧歌的な雰囲気があることもまた否めない。ところがオレオレ詐欺に端を発した電話による身内なりすましの手口は日々進化を続け、「母さん? おれ、おれ」などという初歩的なものからは随分進歩した。もう少し複雑になり、より巧妙になり、手口も多様化した。そこで警察庁は「振り込め詐欺」という呼び名を提案した。ネーミングとしてはオレオレ詐欺ほどの鋭さを明らかに持っていないのだけど、ともすると与えがちだった素朴な印象もまた払拭した。そのことこそに意味があるのだとおれは思う。(どのくらい効果があったのかは実は判らないのだけど……。)
その「振り込め詐欺」という言葉も随分くたびれてきているので、ここいらでまた新しい名前にしようという判断自体は結構いい線いってる。公募を行って話題づくりをしたのもよかったと思う(おれ公募してるの知らなかったけども)。結果として、新しい名前はどんどん手が込んでくる身内なりすましの手口を反映するかのように長い名前になった。どれぐらい使われるかはわからないけど、とにかく試みとしては悪くないんじゃないだろうか。
少し前にニュースでやっていたが、振り込め詐欺の被害者の 80% が自分は引っかかることはないと思っていたのだそうだ。アナウンサーは「それでも騙されてしまうものなんですね」などとコメントしていたが、何を言っているのだと思わずにはいられなかった。詐欺の最大のカモは「自分は騙されないと思い込んでいる人たち」ではないのか。オレオレ詐欺の最大のアドヴァンテイジは大多数の人が「そんなもんに引っかかるものか」と思いこんでいること、だったんじゃないのか。
傍観者の後知恵であんなものに引っかからないと言うことは簡単だ。当事者になった時にリアルタイムで「その手は食うか」と言えるかどうかこそが大事で、そのためには決してこの手の詐欺の恐ろしさを過小評価してはいけないのだと思う。そのためにこそ公募してまで呼び名を変えるのであって、それを笑う人がいるなら、その人は騙される人の側に既に片足をつっこみかけているのだ。