黄昏通信社跡地処分推進室

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『星を賣る店 クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会』 世田谷文学館,2014

“架空のお店にして本づくり工房”クラフト・エヴィング商會の初の棚卸し的展覧会。クラフト・エヴィング商會吉田篤弘吉田浩美夫妻のユニットで、デザインや創作などの活動をしている。おれがその名を知ったのは『じつは、わたくしこういうものです』という本で、その本は珍しい職業に就いている人に対してその職業についてのインタヴューをする、という体裁なのだが、その職業が実は全て架空のものであるというものだった。そのようなメタ的な創作が商會の活動のひとつの軸をなしていて、今回の展覧会の展示品も多くはそういうものだった。その中には明らかに創作だなと判るものもあるのだけど、必ずしもそうでもないものもあって、こちらはそれを見ながらこんなものがあったらいいのになとか、もしかすると本物なのかもとかいろいろ思う。いくつかあったので面白かったのは「まだ書かれていない本」で、タイトルは決まっていて装幀もできていて実体としての本も作られているけどただ中身は真白というもの。そのようなモックを先に作ってから実際に書かれた本もあるみたいで、本人たちにとっては創作意欲をドライブするための方法のひとつになっているのだと思うのだけど、その方法自体もひとつの創作になっている。そういうものを続けて見ているうちにだんだん実際にあるってのがどういうことなんだか微妙にわからなくなってくる。とはいえそんなこととは関係なく楽しい展示で、白いボール紙の箱に入れられた品々が並んでいる様は圧巻だった。それと、創作メモみたいなのがべたべたと貼ってあるコーナーがあって、そのメモはかなり面白かった。貼ってあるところがかなり狭くてみんなじっくり読むので人の流れが停滞していた。『電氣ホテル』という現在進行中の小説に関する覚え書きは模造紙1枚を使って絵も交えながら混沌そのものの図になっていて、かなり情報量が多いにもかかわらずどんな作品になるのか見当がつかなかった。妻が「(初期の)植芝理一みたい」と言っていてなるほど少し通じるところがあるかも知れないと思う。
見終わってみると、思ってたよりは世界ってのはちょっといいところなのかも知れないと思うような展示だった。とてもよかった。残念ながら今日まででおしまい。