黄昏通信社跡地処分推進室

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交差点の名前

蛇崩に限らず、消えてしまった町名が交差点にだけ名を残しているパターンは結構ある。地名を変えること自体は一般的には不便で、それでも町名を整理するのは郵便配達等の便宜のためで、交差点がそれに倣う必要はない。


実家の比較的近所に代々木深町という交差点があったが、ここはおれが物心ついたころにはすでに深町という町名ではなかった。わりと大きな交差点で角には交番もあり、そこも深町派出所という名前だった。おれにとってそれらは長らく「深町の交差点」であり「深町の交番」であった。それが3年ほど前にとうとう交番が代々木公園交番という名前に変わり、交差点は代々木公園交番前という主体性のない名前になってしまった。深町という名はとうとう消えてしまったのだ。
……と思っていたのだが、ちがった。この交差点から少し行ったところにある、かつて代々木小公園という主体性のない名前をつけられていた公園のうち半分が、代々木深町小公園という名前に変わっていた。たぶん交差点の名が変わるのと同時期だったと思う。もしかすると渋谷区役所の誰かが深町という名前をどこかに残そうと思ったのかも知れない。そうだとすれば嬉しいことだ。おれは町名としての深町は直接知らないのだけど。


ちなみに代々木小公園はもともとふたつの部分に分かれていて、間は 50m ぐらい離れている。今は半分がいわゆるプレーパークに作り替えられ「春の小川プレーパーク」、もう半分がこの「代々木深町小公園」、ということになった。おれたちが小さい頃は第一公園、第二公園と勝手に呼んでいた*1。それぞれ別々の名前がついているというのは、未だになんか妙な気がする。


深町の交番では昔よく自転車の空気入れを使わせてもらった。ものぐさ向け tips:交番には必ず空気入れがあって、頼めばまず貸してくれる。自転車のタイヤの空気が減ってることに走り出してから気づいて家に戻るのがめんどくさいときとかに便利。でも通行人に空気入れを貸すことはあきらかに交番の本務から外れているので断られてもおかしくはない。閑話休題。ある時、多分高校生の頃、例によって空気入れを借りようとしてそこ――すなわち深町の交番にいたおまわりさんに「よろしければ自転車の空気入れを貸していただけないでしょうか」と訊いてみたところ、貸してくれたのはいいのだがえらく驚かれた。生まれはどこだと訊くので生まれも育ちもこの辺りだというとひどく意外そうにして、東京にはそんな丁寧なものの頼み方をする若い人はいないみたいなことを言われた。絶対そんなことない、ただそういう人は交番で図々しく空気入れを借りたりしないだけのことだ。と思ったけどはあそうでしょうかぐらいのことを言ったと思う。あのおまわりさんこそどこの生まれだったのだろうか。40 代半ばぐらいだったのではないかと記憶しているが、今どこでなにをされているのだろうか。深町の交番というとその出来事が忘れられない。もう 20 年以上前の話。

*1:深町の方が第一公園