黄昏通信社跡地処分推進室

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Hymn to Rooftops

屋上を見下ろすのが好きだ。屋上のいろいろな構造が好きだし、ちょっとものが置いてあったりするのも好きだ。階段で上がれるようになっていたり、梯子でしか上がれなかったり、階段の屋根部分に梯子で上がれたりするのもいい。普通は簡単に出られるけど、時々とても素人には無理そうな梯子がついてたりもする。植木鉢がぽつんと置いてあったり、まれに所狭しと並んでいたりもする。物干し台と物干し竿というのも今となっては些かのノスタルジアを感じさせるアイテムだ。柵で囲われていることもあれば、落ちたら手前の所為だとばかりに申し訳程度に縁が出っ張っているだけだったりもする。


アンテナは大抵の屋上にある。漫画に出てくるような横棒4、5本の真ん中を縦の棒が1本貫いてる奴はかつての VHF アンテナだ。横棒が短くてたくさん生えてて、全体が矢印みたいな形になってるのが地デジのアンテナ。それから何種類かのパラボラアンテナ。時には携帯の基地局が立っていることもある。さすがにかなり存在感がある。


最近は防水塗装をされていることが多い気がする。白系のゴムっぽい材質でべったりと塗った感じの質感は個人的にあまり好みではないけど、でも屋上の防水は極めて重要だ。ぐるりと溝がめぐらされていたりもする。コンクリートのタイルが敷き詰められていたりもする。エアコンの室外機が置かれていることもある。小さな給水タンクが設置されていることもある。ゴルフの練習用のネットが立っていたりもする。ガラスの温室があってエキゾチックな植物が葉を繁らせていたりもする。ささやかな屋上緑化も今日日は多い。申し訳程度の植え込みに若木がすっくと立つさまはなかなかいい。


上部構造が複雑だと見応えがある。日照権の関係で冬の陽が投げかける影の角度に沿ってすっぱりと角を裁ち落とされていたり、あるいはその後退を最大限に活用しようと猫の額ほどの小さな屋上が段々畑のように連なっていたり。その屋上同士が梯子や階段で行き来できるようになっていて、窓や小さな扉で内部とつながっている。


超高層ビルから高層ビルの屋上を見下ろすと思いがけないものが見えることもある。代表的なのはヘリポートだ。丸の中にHと書いてある。窓拭き作業用のゴンドラのレールが外周に沿ってめぐらせてあるのが見えることもあって、これはかなりわくわくする。正確にはゴンドラのキャリアとでもいうのかも知れない。


人が居ることもある。雨に濡れても構わないような椅子が置かれていて、それに座っていたりする。タバコをくゆらせていたりする。ただ休んでいる人もいる。屋上に用がある人や作業をしにくる人もいるはずなのに、どういうわけか僕の目に入る屋上に居る人はとりたててすることがないように見える。


そういえば、昔屋内型テーマパークでアルバイトしていた頃、たまに屋上に上がってサボっていたことを思い出した。フリーフォールのアトラクションの機械室があるから屋上に出られたのだ*1。屋上は外周を目隠し板でぐるりと囲われていて周囲の景色は殆ど見えなかったが、近くにある高いビルや工事中の建物の上に乗っているクレーンなんかが見えた。建物内には窓がひとつもなくて、ずっと薄暗い屋内に居ると目が悪くなるような気がしていたから、少し離れたビルの窓を数えたりしていた。もしかすると高いビルの方からも誰かが屋上を見下ろしていて、あいつあんなとこでサボってやがるな、なんて思っていたかも知れない。曇っていた日もあったはずだけど、記憶の中の空はいつも快晴で、ひどくまぶしく、青く、美しい。

*1:「無駄に本物っぽいディテイル」の典型例