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『知られざるロシア・アバンギャルドの遺産 〜スターリン弾圧を生き延びた名画〜』 NHK-BS プレミアム

面白かったテレビ番組シリーズ。これは調べたところ1月末ごろ再放送されていたBSプレミアムの「プレミアムアーカイブス」で、元の番組は 2003 年放送。この文章は2月〜3月ごろには書いていたはず。


前々からロシヤ・アヴァンギャルドという奴は面白いなあ、かっこいいなあと思っていたのだが実際どのように展開されていたかというのは全然知らなかった。この番組はウズベキスタンのヌクスにあるカラカルパク自治共和国国立美術館に収蔵されているロシヤ・アヴァンギャルドの(主に絵画)作品を通して、それらの作品を後世に残すために殆ど生涯をかけたイーゴリ・サヴィツキーという男の成し遂げたことを紹介している。
ロシヤ・アヴァンギャルドは 1930 年代辺りから猛烈に弾圧され始め、画家たちは厳しい選択を迫られた。すなわち転向するか、筆を折るか、亡命するか。しかし望むと望まざるにかかわらずシベリアに送られた者も少なからずいたようだ。
サヴィツキーはもともとは遺跡の調査でヌクスを訪れており、そこで弾圧を逃れてきたアヴァンギャルド芸術家たちの作品と出会ったらしい。やがてサヴィツキーはロシヤ・アヴァンギャルドの作品を片っ端から集めるようになった。
番組で見た限り、サヴィツキーはそれこそ取り憑かれたように収集していたらしい。あるところまで集めると評判が広まり、自分の作品を残したい画家たちは喜んでサヴィツキーに作品を渡すようになった。また、お金を集めたり引っ張ってきたりすることにも長けていたようで、カラカルパクスタン美術館は巨額と言っていい金額を作品購入に費やしていたらしい。中央の美術館にも協力者はいて、廃棄扱いにした作品をじゃんじゃん横流ししたりしていたのだそうだ。サヴィツキーも大胆極まりなかったとは言えるが、全体にはサボタージュの匂いが濃く漂い、つまりみんながみんな弾圧に協力的でもなかったし、むしろサヴィツキーの意気に共感するところが大きかったのだろうという印象を受けた。サヴィツキーは最後は病に倒れたが、逆に言えばとうとう当局から直接弾圧や制裁を受けることはなかったのだった。


語り手は亀山郁夫氏で、初めて見たがおだやかな語り口で中々良かった。ヌクスまで行くのはそれだけでかなり大変そうだったが、本人も相当思い入れがあるのだろう、嬉しそうなのもよかった。