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『クラゲという“神様”に出会った 〜世界一のクラゲ水族館〜』 NHK-BS プレミアム

面白かったテレビ番組シリーズ。これはたぶん2月頭の再放送で、最初に放送されたのは 2014-06。番組情報はここにあったのだが今見たら消えてしまっているな。→http://www4.nhk.or.jp/P3190/26/ ウェブアーカイヴには一応残っていたので張っておこう。→http://web.archive.org/web/20140803180159/http://www4.nhk.or.jp/P3190/26/


山形県鶴岡市加茂水族館は現在「クラゲ水族館」の異名を持っている。展示するクラゲの種類は 30 種類、2012 年にはビール屋の本*1にも世界記録として認定された。しかし 20 年前までは、高度成長期にある種の流行として各地に乱立した公立水族館のひとつに過ぎず、物珍しさが薄れてからは客足が鈍る一方、廃止すらもとりざたされるようになっていた。ところがある日、偶然水槽に紛れ込んだクラゲの赤ちゃんの前に人だかりができていた。館長はこれだと閃き、そこからクラゲの飼育に本腰を入れ始める。デリケートで寿命が短く、飼育は難しいというのが定説になっていたクラゲに水族館の命運を託したのだ。
最初にクラゲが来た日のことを館長は「神様がやってきてくれたのだ」と振り返る。なるほどそれは幸運な偶然であったのかも知れないが、その偶然をこのように好機として受け止められる者は多くはない。そしてその好機を本当にものにできる者は殆ど居ない。


館長の意思の下、水族館ではクラゲの飼育に注力した。寿命が短いという制約がある以上安定した展示のためには継続的な繁殖を行うことが不可欠になる。地道な研究と試行錯誤が続いた。やがていくつかの種類の繁殖が軌道に乗り、加茂水族館はクラゲ水族館への道を歩み始める。一方新たな繁殖への試みは現在でも続けられており、職員が新種の採取のために東南アジア(……国を失念。インドネシアだったかな)へ向かう映像が数分入っていたのだけど、なかなかに難儀な作業ではあるようで、当たりをつけた入り江みたいなところで海水ごと幼生らしき奴らをがばっと掬い上げ、あとは瓶に詰めて持って帰って詳しいことは調べる、みたいな感じらしい。天啓があっても王道はないということか。


加茂水族館は 2014 年夏、建物の老朽化のため隣接地に新館を立てて移転した。クラゲ御殿である。目玉は 8000 匹のクラゲが泳ぐ巨大水槽だという。普通に考えれば明らかに過剰だが話を聞いているとこれぐらいしてもいいのだろう。テンプレート通り「巨大水槽で想定どおりには水が循環せずクラゲが底に溜まっちゃってピンチ」みたいなエピソードが差し挟まれていたのだが、それよりはその前の「水槽の引越しをするのに近所の人に声をかけてバケツでクラゲを運んでもらった」というエピソードのほうがクラゲ水族館の面目躍如という感じでよかった。


ともあれ、地方にある有象無象の水族館や動物園が一歩突き抜けた事例として興味深かった。現実問題としては「よほど運が好くてそのうえ頑張らないと無理」というようなことになってしまう気がするのだが、差別化の必要とか方向性とかはわずかなりとも普遍性を含んだ内容だったようにも思う。あと、クラゲたくさん見られて楽しかった。よい番組でした。

*1:いわゆる「ギネス・ブック」