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[ウゴクエver.1.0]心に残るゲームたち (3) 再掲:『オリビアのミステリー』



『オリビアのミステリー』 アルトロン/スーパーファミコン,1994


昔、ファミコンディスクシステムで『きね子』というゲームが発売されていた。正方形の絵の欠片をつなぎ合わせて、大きな一枚の絵を作るゲームだった。もちろんそれだけでは子供のおもちゃ以下でしかない。そのゲームの肝は、その絵が動いていることだった。一見ふざけた名前も、実は「キネティック・コネクション」の略だった。『きね子』は比較的売れたらしく、続編の『きね子2』も発売された。


『オリビアのミステリー』は、メーカーこそ異なるが、パズル部分についてはその流れを正当に継いでいる。4×4ピースから8×8ピースまでの正方形パズルで、絵は単純な繰り返しのアニメーション。本物そっくりのダミーパーツが混じっていて、折角正しい場所に運んでも置いた途端にぽん!と爆発、というフィーチャーもあった。わりと難しく根気が要るが、好きな人には楽しいパズルだった。


それだけでは『きね子』と変わらないが、『オリビアのミステリー』は単なるパズルではなく、ストーリー仕立てになっていた。文章量は絵本に毛が生えた程度で、一定量の文章が進んだところでパズル部分が挿入される。プレイヤーはパズルを完成させて、文章にいわば挿絵を添えることになる。説明書には「文章から情景を想像して、パズルを完成させましょう」という記述があった。洒落た趣向だ。と言ってもいい。んじゃないか。と思う。


歯切れが悪いのは、この物語がよくも悪くも奇天烈そのものだからだ。説明書のプロローグには

皇帝の娘を助けなければならない。そう思い込んだ男が、冒険の旅に出る。
とだけある。実際の物語は水道局の給水塔の爆発事件から始まり、給水塔によじ登るが修理できず→周辺の水不足→帝国の姫君が水を口にせず→主人公水を求めて人間大砲の弾に志願→飛びすぎて宇宙へ→月世界で水を汲む→なんとか帰還→姫君病気に→薬を求めて東方へ→……と、荒唐無稽なストーリーが展開される。文章から情景を想像するのは、ちょっと無理だ。


そして、使われているイラストの出来。いろいろなところで語られているから御存知の方も多いことだろうが、絵を組み上げるゲームなのに、このゲームで使われている絵の質は「お世辞にも高いとは言えない」――多分、これでもほめすぎだろう。見たことのない方は是非見て欲しい。
『オリビアのミステリー』パッケージイラスト


すっかりクソゲーの評価が定着してしまったこのゲーム。だけど、悪い面ばかり強調されて遊んでいればほんとにひどいゲームに見えてくるのも事実だ。先入観無しにこのゲームで遊んだ人が、どれほど居たんだろう。
確かに奇天烈だけど、破綻はしていないし、決して先を読ませない物語。
大仰な音と微妙に外れてるリコーダーが耳に残るタイトル画面、綺麗なメロディとヘンテコなベースラインが病みつきになる1面など、好い曲揃いの BGM。
イラストだけは弁解のしようがないと思うが、前述したようにゲームも楽しかった。ここまで酷い扱いを受けるべきゲームだとは、おれには思えない。
もちろん、手放しでほめる心算もない。ちらちら動いて判りづらいイラスト、ストーリーに分岐がない、面数が少なくてすぐ終わってしまう、など、不満点もいくつもあった。ただ、それを加味しても、おれはこのゲームが好きだった。同じように感じた人も、特に当時は結構居たんじゃないかと思っている。


最後に、気になっていることをひとつ。
『オリビアのミステリー』は、実は「ウゴクエver.1.1」と題した PC-9801 版が発売されている。パッケージイラストは見事に差し替えられ、綺麗な洋服をお召しになった可愛いお姫様が描かれていた。「これがあれか?!」 見た時は驚愕したものだったが、98 も持っていなかったし、まさかそれだけで買うこともなかった。しかし、あのパッケージイラストだとすると、ベタ移植ではおそらくあり得ない。最低でもイラストは変えられていたことだろう。一体どんな風に変わっていたのか。検索をかけても、殆ど情報は見つからない。


このゲームについては、おれはほぼ“消化”してしまった。もうあまり遊びたいとも思わないし、少しくすぶってたもやもやした思いも、大体この文章を書くことで吐き出してしまったと思う。だけど、ただひとつそれだけが気になることが、未だにほんの時々ある。


初公開:2003-09-25 以前





先日アルトロンの話で予告した文章の再アップロード。なんと第3回だった。3回目でこのゲーム行ったのか。攻めてるなあ。
今回も修正は句読点と空白等の体裁だけにとどめている。


初公開の頃のインターネットでのこのゲームの扱いは結構ひどいもので、なんというかひどく馬鹿にされていた。20 世紀末ぐらいから 21 世紀頭ぐらいって「クソゲーいじり」みたいなのが出てきた時期でもあって、『悪趣味ゲーム紀行』を筆頭に、出来が悪いゲームに突っ込みを入れて笑い飛ばす、みたいな芸風が流行ったんだけど、そういうのりがネットにも結構進出してきていて、「だめなゲームは嘲笑してもいい」みたいな了解が一部にあったと思う。おれはそれがどうも好きじゃなくて、だいたい馬鹿にしてる奴らこのゲームやったこともねえだろ!みたいな(←これは妄想)勢いでこれを書いた。特に中盤妙に擁護というか言いわけめいているのはその所為。
最後に書いた PC-9801 版については、結局決定的な資料は見つからなかったけど、調べた感じではパッケージ絵だけは変わっていたものの中身はベタ移植だったらしいとか。


しかしなんといっても最後にほぼ消化してしまったとか書いてあるのがびっくりである。消化どころかおれはこれを皮切りに 10 年近くこのゲームとその続編に関することを断続的に書くことになるのだ。むしろオブセッションの域と言えよう。
あと書いてなかったことでもうひとつだけ挙げておくと、2ちゃんねるのアリョールスレッド(20 レスぐらいで dat 落ちした)で5人ぐらいで馴れ合ってたらそのうちふたりがおれと兄だったというひどい思い出がある。当時流石に兄は実家を出ていた筈だがそれにしてもあんまりだったと思う。