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『独創短編シリーズ 野崎まど劇場』 野崎まど 電撃文庫,2012



『独創短編シリーズ 野崎まど劇場』 ISBN:9784048910996


というわけで、野崎まどの短編集。もともとは「電撃文庫 MAGAZINE」で連載していたものをほぼ発表順に並べて、あと書き下ろしと連載時の没作品を加えて一冊にまとめている。題材もジャンルもスタイルもばらばらだが、おおくくりにすれば「ギャグ」と言ってよかろうかと思う。
冒頭に収録されているのがしょっぱなからアスキーアートによる銃撃戦が始まってぎょっとする「Gunfight at the Deadman City」(書き下ろし)。細かいネタが詰め込まれていて普通におもしろく、妙な緊迫感もあって引き込まれる。書き下ろしにこれほどのものを持ってこれる力があるのか、と感心した。
連載分はさすがにどれも面白いとはいかず、正直微妙と思えるものもいくつかあったけど、ギャグの好みというのは個人差が大きいものだし、それを考えるとそこそこ水準は高いと言ってもいいかも知れない。というわけで、好きな作品をいくつか挙げておこう。


作品No.05「土の声」:名古屋の郊外で自然に囲まれながら作品をものする陶芸家に迫るインタビューという体裁の話。インタビュアーがいい加減なのが面白い。
作品No.10「魔王」:勇者を迎えうつダンジョンを作ろうとする魔王と部下との会話。そこまで珍しいメタギャグではないのに妙に面白く、これは好き。魔王に基本的にやる気がないのがよい。
作品No.11「デザインベイベ」:思うままの遺伝子操作が可能になった近未来、ベイビーデザイナーが顧客からの細かい要望に苦戦する。古今東西このテーマを扱った物語の中でもっともふざけた話だと思うが、にもかかわらずこの技術にうっすらまつわるグロテスクさがにじみ出ているのがよかった。
作品No.15「爆鷹! TKGR」:小学生の間で鷹狩りが大流行、という世界でのライバル譚。腰につけた端末がわざわざ妙に流暢な英語でバトルのレギュレーションをアナウンスしてくれる、というのが個人的にはヒットだった。


……しかしこうして書いていると、ぜんぜん面白そうに思えないな。ギャグの面白さを説明するというのは基本的に無理だし、野暮でもあるかも知れない。


そのほか、二本のあとがきや、裏表紙やカバーの裏にまで掲載された作品と、過剰なサービス精神がこぼれ落ちそうな一冊だ。ギャグ小説ってやっぱり難しいよなーと思わずにはいられないけれど、それでもよいチャレンジではあると思う。万人におすすめとは到底いかないが、少し変わったものを読んでみたい向きは挑戦する価値がある。