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『異形の日本人』 上原善広 新潮新書,2010



『異形の日本人』 ISBN:I9784106103872


もう読んでから結構間が空いてしまったこともあるし簡単に。著者があちこちの媒体で書いた「異形の」すなわちアウトサイダーである日本人のルポ七本を一冊にまとめたもの。ひとことでアウトサイダーと言っても当たり前ながら様々で、本書にも“ターザン姉妹”を筆頭にストリッパーや身体障害者やり投げ選手、落語家などが登場する。


単純におれがスポーツ好きであることもあって、圧倒的に強い印象を残したのはやり投げ選手溝口和洋を取りあげた章だ。溝口が活躍したのは 1980〜90 年代だが、1989 年に叩き出したそのアジア/日本記録は 2014 年に破られるまで実に 25 年を要した大記録であった。IAAF グランプリシリーズを転戦して総合2位の成績を残した年もあり、日本人の投擲選手としては室伏広治と並び称されるべき傑出した選手だった……らしい。
しかしマスコミ嫌いで多くを語らず、誤解されてもそれを自分から解こうとはしない性格であったこともあって、語られることはあまり多くない。また溝口は、日本の陸上選手として名を残すためには圧倒的にどんな大会よりも重要となる五輪で芳しい成績を残せなかった。そのために早くも半ば忘れられた存在となりつつある。そんな選手のひととなりと競技生活のハイライトを限られた紙数で描いていて、優れたスポーツノンフィクションだった。


他の章もそれぞれに面白かったが、同時になにか居心地の悪さみたいなものを感じるところもあって、たとえばストリッパーの章など正直少し引いてしまった。それはおれの持つ差別意識のあらわれに違いなく、向き合わなければならない部分ではあるのだろうが、どうしたらいいのかもよくわからない。