ツールが終わった。今年はほぼ毎日見たが、日によってどれぐらい熱心に見ていたかは結構差があった。一番気合いを入れて見たのは第6ステージの新城幸也(ランプレ・メリダ)が逃げた日だったろうか。二人逃げという不利な状況で残念ながらあっさり捕まってしまったのだが、今年の2月に大腿骨を骨折したという事情を考えれば驚異的な回復ぶりで、自身キャリア二度目となる敢闘賞を獲得した。そこ以外は残念ながらさほどの見せ場もなく、本人としても不完全燃焼の思いはあったようだが、それでも完走する辺りは流石としか言いようがない。またグラン・ツールで見られることを疑わないし、まずは直近の大レースであるオリンピックでの活躍を期待したいところ。
クリストファー・フルーム(スカイ)は今年も圧倒的な強さだった。二位に四分差つけたのだから数字的にも圧勝だったが、なにより総合上位勢に対してタイムを失ったことがほぼ無かったので、端から見ているとどうやって勝てばいいんだという感じだった。抜け目ないレースぶりも印象的で、第8ステージの下りでのアタック、第 11 ステージでのサガンとの共闘など、本人の言葉通り「少しでもタイムを奪えるなら仕掛ける」という姿勢は徹底していた。タイムトライアルの強さも際立っていた。2回の TT で総合2位、1位で、やはり総合上位勢に大きな差をつけた。ずば抜けた力を持っていることは間違いない。その上で、本人の言うように、チームのメンバーも全員総合優勝だけを目指して集められ、そのために動いている。真っ向から勝負してフルームを倒すことは並大抵の業ではなかろう。
ロマン・バルデ(AG2R)が総合2位に食い込み、フランス人の希望となった。後半に行けば行くほど力を発揮して、特に第 20 ステージでは相手の落車に乗じたとはいえフルームから 30 秒ほどタイムを奪った。逆にタイムトライアルでは2ステージ合わせて 3:30 ほど失っている。それでもある程度のめどは立ったと言えるのかもしれない。
ナイロ・キンタナ(モヴィスター)はとうとう勝負らしい勝負に出ることのできないままツールを終えた。昨年のような度重なる果敢なアタックはなりを潜め、ひたすらフルームの真後ろを影のように追走するのが精一杯だった。明らかに本調子を欠いていて、本人によるとアレルギー症状があったとのこと。第 20 ステージでは「雨のおかげでだいぶましだった」とのコメントを残しているので、花粉症か何かなのだろうか。我が家はキンタナびいきなので特に第 18 ステージで置いて行かれた局面ではふたりとも声が出なかった。それでも総合3位に残ったのは流石としか言えない。ブエルタ・ア・エスパーニャに出るとのことなので、そちらでの活躍を期待したい。
山岳賞はラファウ・マイカ(ティンコフ)が獲得した。序盤はコンタドールのアシストをつとめたが、コンタドールがリタイアしてからはポイント稼ぎに本格的に乗り出し、デ・ヘントやピノを蹴落として最後は大きなリードを保ったままゴールした。登坂力があってタフなライダーで、近いうちに総合上位に顔を出すだろう。スポンサーが手を引く見込みなのは残念だが、さすがにこの人なら引く手あまただろうし。
山岳ステージでは他にハリンソン・パンタノ(IAM)も存在感を示した。相当な下り巧者で、マイカに上りでつけられた差を下りで一気に取り返すシーンが二度ほどあり、大いに名前を売った。第 15 ステージではそのままマイカを抑えてステージ優勝も飾っている。ここ数年のコロンビアといえばナイロ・キンタナ、という状況は内心面白くないところもあったようで、今回コロンビアにパンタノあり、ということを知らしめられたのは痛快だったろう。こちらもチームが解散ということで、来年どこが獲るかは注目される。
スプリンターではマーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)がステージ4勝と復活の狼煙を上げた。二日目にはキャリア初めてのマイヨ・ジョーヌにも袖を通して、素晴らしい戦績となった。プロチームになったばかりのディメンションデータとしてもいい結果を残せたと言えそうだ。
マイヨ・ヴェールは5年連続でペテル・サガン(ティンコフ)が獲得した。このジャージはサガンのためのようなものなので、サガンが取ること自体は何の不思議もないのだが、とはいえ事故も怪我もなく毎年当たり前のようにさらっていくのはすごいの一言だ。前2年はステージ優勝から見放されたが、今年は早々と第2ステージで勝利をあげると、まさかのフルームとの共闘で1勝、第16ステージではアレクサンドル・クリストフ(カチューシャ)とのぎりぎりの競り合いを制してもう1勝、の合計3勝で堂々のチャンピオンスプリンターとなった。ティンコフがなくなるとすればサガンがどこへ移籍するかは大いに注目されるところ。→ボーラに行くみたい。ボーラか! なかなか面白くなりそう。
ピュアスプリンター勢ではマルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)が復活を遂げ、第4ステージでは優勝も果たした。昨年は怪我と病気でグラン・ツール未出走に終わっただけに今回の優勝は嬉しかっただろう。昨年ステージ4勝をあげたアンドレ・“ゴリラ”・グライペル(ロット・ソウダル)はなかなか勝ちにたどり着けず苦しんだものの、シャンゼリゼでは早め抜け出しからサガンの追い込みをぎりぎりしのいで最後の最後で初勝利をあげた。出場したグランツールではすべて勝ち星をあげているとのことで、これまたただ者ではない記録だ。スプリンター四天王ではクリストフが唯一勝利をあげられなかったが、平坦ステージでは上位に再三食い込んでいて、若干めぐり合わせが悪かったか。
マイヨ・ブランはアダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)が獲得した。ヴィンテージイヤーである 1990 年生まれ世代が今年からこのジャージを着れなくなるので注目される賞だったが、第7ステージから白ジャージを守り続け、終盤まで総合表彰台圏内に喰いこむ堂々たる走りぶりだった(最終順位も4位)。最後はルイ・メインチェス(ランプレ・メリダ)に2分台まで差を詰められたものの、着差以上の勝ち方ではあったかなという印象はある。イギリス生まれで、双子の兄弟サイモン・イェーツと共に地元のスカイから勧誘されたが「強いチームで埋もれるよりエースとして走りたい」と言って断ったというかっこいいエピソードを持っている。ちょっと応援したくなるよね。
若手では他にジュリアン・アラフィリップ(エティックス・クイックステップ)が目立っていた。なんといってもイェーツに奪われるまで白ジャージを着ていたのはこの男だったのだし、第16ステージではチームメイトのトニー・マルティンとたったふたりで絶望的な逃げを打ち敢闘賞に輝いたり、第20ステージでも果敢に逃げに加わって4位に入っている。なにより惜しかったのはパンタノとふたりで下りで差を広げた第15ステージで、チェーンが外れるトラブルがあったにもかかわらず 22 秒差の5位だった。トラブルがなければ計算上は圧勝していたことになる。まあ結果だけ見ると盛大に空回りしていたとも言えるのだが、思っていた以上に山岳ステージでもやれるし、今後が大変楽しみな選手と言えよう。
大会としては、フルームのランニングなんていう珍事も起きてしまったが、まあよくも悪くもグランツールが共通して持つゆるさの表れではあったし、あれを改善しようと思っているならとっくにできているだろう。だからあのようなことはこれからもきっと起きるだろうと思わざるを得ないし、これはこういうものなんだと考えるべきなのだろう。