黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『オデッセイ』 リドリー・スコット監督 20 世紀フォックス,2015

DVD にて鑑賞。言わずと知れた『火星の人』(参照→http://d.hatena.ne.jp/natroun/20160824#p1)の映画化で、ぽっと出のウェブ小説がリドリー・スコットに映画化されるなんてまあすごい時代になったもんだ。ちなみに主演はマット・デイモンさんである。原作のちょっとオタクで「僕も火星から生還したらモテモテのはずだ」とか妄想している植物学者がマット・デイモンだ。いやまあウィル・ファレルとかアサインされても困るんだけど。


基本的な筋書きは原作と全く同じ。ワトニーは火星に取り残され、奇跡的に生き残り、DIY サバイバルを始める。なんだけど、原作ではふざけたログで読まされるところが全部カメラの映像なので、それだけで受ける印象はだいぶ違う(ログをつけてる描写自体はある)。原作の解説に「一人称パートが三人称パートを大きく凌駕している」みたいなこと書いてあってこれはその通りだなと思ったんだけど、若干その現象が起きてしまっている。映画を先に見た人は特に序盤はかなりシリアスな印象を受けただろう。このあたりはそうじゃないんだよなーという感じはあった。


しかし、さすが映画、映像の力は素晴らしい。もちろん小説だって読みながらいろいろ絵面を想像するわけだけど、やっぱり実際見ると全然違うしそちらに印象が引っ張られる。わけても火星の大地の映像は実によかった。いやまあ火星近くで観たことないし映像そのものも実写なのか CG なのかも知らないんだけど、感想としては「どっちだとしてもすげええー」である。映像にするってことはそれだけでひとつの正義なのかもしれん。


あと音楽もちょっと面白かった。原作でも何度かネタにされるルイス船長の「70 年代ディスコミュージュック」が実際に流れるのだ。これは火星の荒涼とした雰囲気、あるいはハブやローバーの無機質な内装の中でなんかちょっと不気味に響いていてよかった。


展開はかなり整理されていて、ワトニーは原作ほど多くのトラブルには見舞われない。これは映画の尺を考えれば当然で、カットされたトラブルには絵的に難しいだろうなというものもあるし、説明が若干ややこしいものもある。取捨選択やアレンジは的確に思えた。
というわけで普通に面白いしどきどきするし、よくできた映画であると思います。観たことのない人にはおすすめしたい。しかしどうしてもそのとき一言、「原作も面白いから読むといいよ」と伝えたい……! とそういう感じ。原作の持ついろいろなよさのうち、映画がどうしても掬いとることのできなかった部分こそが、どうやらおれは一番好きみたいだ。