黄昏通信社跡地処分推進室

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ガス漏れ検知器の交換のお知らせが来た。まあ要するに耐用年数が来たから交換してね、というものなのだが初回の今年だけは無償でいいという。でも交換は自力でやってね、新品の検知器は管理人室で配ってるからよろしくね、というシステムだった。
配られた検知器の箱にはブタンガス漏れ試験装置というものが同梱されていた。見た目は昔ながらの 100 円ライターのガス噴出口に長さ 15mm くらいのゴムチューブをくっつけたという感じの代物で、火打ち石までついていたので多分ほんとにそうやって作っているのだろう。ただ、注意書きのラベルはちゃんと専用のものが貼ってあった。
箱には交換の手順書も入っていて、交換した後試験装置でガスを少量吹き付けてアラームが鳴るのを確認したらリセットしろ、というようなことが書かれていた。一方、配布の案内には「ガスライターが同梱されているけどそれは手違いだから。使わなくていいから」というようなことが書かれていた。


もちろんこういう時テストせずにはいられない質である。


交換自体はほんとうにあほみたいに簡単で、あっさりと作業を終えると、おれはちょっとわくわくしながらブタンガス漏れ試験装置を検知器に近づけて、親指で1秒ほどガスのボタン(なんと呼ぶべきか)を押した。なにも起きなかった。あれ? と思ってもう一度近づけて、少し長めにボタンを押した。
警報音がけたたましく鳴り始めた。
手順書によればここでリセットを押せば警報が止まってめでたしめでたしである。ところがリセットボタンの LED がそもそも点灯しない。押しても反応がないし、警報は鳴り続ける。しばらく泡を食ったあげく、セコムに電話した。
「かくかくしかじか」「リセットを押してもらえますか? 操作板の中央の右側にあるボタンです」「押しましたけど止まらないんです」
だとすると、ガスの濃度が高い可能性があるという。おれは換気扇を回し、窓を開けた。警報は止まらない。そのうちセコムの人が直接人を行かせましょうかなどという。わあやめて。でも自力で解決できない限りそうならざるを得ない。とりあえず人を手配するから一旦切る、と言われて電話は切れた。
こうなったらこれしかない。おれは娘のおもちゃ箱から手回し扇風機を持ってきて、検知器に向けてぐるんぐるんハンドルを回した。2秒ほどファンがうなると、警報音がぴたりと止んだ。勝った。それだけのことだったのだ。


……しかしまあ、やんなくていいからと書いてあった理由をおれは痛いほど理解した。これをマンション内の各家庭でやられたんじゃたまらないだろう。つまり、すみませんでした。言わんこっちゃねえと言われれば返す言葉もありません。
でもテストはしてよかったなと思う。これをやるのとやらないのとでは、納得の度合いが全然違っただろうから。
もしこれを読んだ人が同様の作業をする機会があったら、ガスの吹き付けには充分注意してほしい。いいから少しずつ押すんだ。万一長く押しすぎてしまったら、おもちゃの扇風機で吹き飛ばすんだ。