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『アフリカにょろり旅』 青山潤著 講談社文庫,2009-01

アフリカにょろり旅 (講談社文庫)

アフリカにょろり旅 (講談社文庫)

著者はウナギの研究者で、世界各地でウナギの標本を集めるフィールドワークを行っている。ウナギは東アジアにももちろんいるが、東南アジアにもヨーロッパにも生息しているし、書名にもあるとおりアフリカにもいる。そしてそれぞれに種類が違うため、実地で標本を集めることがまずは研究の第一歩であるらしい。というわけで研究室のボスと、著者と、大学院生の「俊」とでアフリカに赴き、文字通りまだ見ぬウナギを捕りに行く……わけだが、これがもう笑ってしまうほど悲惨な体験記で、まあフィールドワークってそういうもんだろうけど学問の世界はきびしい。


なにしろ金がない。アフリカとはいえ安宿を探す。そうすると値段相応にひどい。そもそもアフリカの田舎なんだからまあ立派なホテルはないわけだが、それにしてもほんとうにそんなことあるのかというレベルでひどかったりする。トイレを誰も流してなくてうんこが山盛りとか、それはもう田舎だからとかそういう話ではないのではないか。


そんな環境でウナギを探すが、もちろんそう簡単には見つからない。これは文化的にしょうがないのだろうけど、そもそもアフリカの人はウナギについてなにもわかっていないというかほとんど興味もないらしい。標本を集めるときには地元の人に捕ってもらって買い上げるのがわりと一般的なやり方のようなのだけど、まずウナギとはなんたるかというところから始めなければならないらしい。それで、わずかな、あいまいな手がかりを頼りに、ここぞというところに移動してしばらく腰を据えて聞き込みや買い取りを行う。その移動もバスであったり、ひどければヒッチハイク的にトラックなどに乗せてもらったりして、どちらにしても路面はでこぼこだし車もオンボロだし、読んでいるだけで腰が痛くなりそうだ。


そんなわけでやっていることは滞在としてはそこら辺のバックパッカーと変わらない水準で、目的としては前人未到の研究で、しかし言いづらいが、研究そのものはウナギの標本を集めるという「そこまでしなくても……」などとうっかり言ってしまいそうな内容だ。その二重にねじれた矛盾を抱えた滞在は、長引くにつれて著者たちを苛んでいく。このあたりは研究者の書くエッセイならではの読ませどころ。
とはいえ全体には明るくはちゃめちゃで前向きで、よくやるなあ、と感心するような空気に満ちていた。これを例えば中高生が読んで「フィールドワークやってみたい……!」ってなるかというと一般的にはだいぶ疑わしいものの、それだけに確かにある種の魅力がこもっていて、何百人かにひとりはこの本のことが強く心に残るようなこともあるのではないかと思う。


本書はそこそこ売れたようで、著者はこのあと類書を二冊出しているようだ(『うなドン 南の楽園にょろり旅』『にょろり旅・ザ・ファイナル 新種うなぎ発見へ、ロートル特殊部隊疾走す!』)。きっとある程度以上は面白いだろうけど、そこまではつきあわなくてもいいかな、というのが個人的な評価。