- 作者: 斎藤美奈子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/07/16
- メディア: 文庫
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戦争の初期はまだまだ余裕がある。彩りや形でめいっぱい遊んだ子供向けの料理なんかが出ていたりする。米飯も遠慮なく使われている。ところが徐々に雲行きが怪しくなっていく。代用食が推奨され、パンやうどんを日常食に取り込むヒントが示される。
配給制が始まると、欲しいものが思うように手に入らなくなっていく。レシピも変わっていくのだがその変わり方がすごい。肉は姿を消し、魚は具体的な種類のない「魚」に変わり、それもどんどんイカと貝に取って代わられていく。イカや貝はまだ沿岸や近海でそこそこ獲れたからだ。
そのうちに分量の記述がなくなってしまう。そうなるともはや「レシピ」ではなく、料理のアイデアにすぎない。そして食材も抽象的に、さらには野趣あふれるものになっていく。著者が「もはやサバイバル読本である」というようなことを書いていたが、まさにその通りで、つまり生活も実際そういうものになりつつあってあったのだろう。
婦人雑誌に載っているレシピというものの位置づけについての示唆も面白かった。著者曰く、一般的には普段の食事より少し背伸びしたおしゃれで手の込んだ料理であって、実際にそれを作る人は多くない、というものであるという。だがそれも平時の話であって、戦争中は完全にその位置づけも崩れていた。というようなことを思うと、婦人雑誌に野草料理が載っているという事態はより切ない。
また本編とは少しずれるが当時の情景写真がいくつか掲載されている中で、国会議事堂の前の芝生を耕している光景はかなり衝撃的だった。かの戦争がいかにどうしようもない状況に陥っていたかということを一枚でよく伝えている写真だと思う。
『この世界の片隅に』の参考資料に挙げられていた本で、実際おれも副読本みたいな感じで読んだ。その観点からも楽しめるし、そうでなくとも面白い本と思う。著者のやわらかいけどぐいぐい来る文体もひさびさに読んだが健在だった。おすすめ。