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『四畳半王国見聞録』 森見登美彦 新潮文庫,2013-06

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

著者得意の京都ものの短編集。『夜は短し歩けよ乙女』『走れメロス』(に収録されている各短編)あたりと設定を共有していると思われ、共通の登場人物がいたりする。スピンオフ、というほど明確でなく、SF で言えば「未来史もの」という感じなのだが現代が舞台なのに未来史もなにもというところでもある。
フレーバーは著者独特のもので、薄暗く、じめっとしていて、しかし妙な居心地のよさがある。キャラクターも悪くはない。しかしシチュエーションやストーリーには見るべきものがない作品が多い。ひとことで言えば、著者が持ち前の語り口といつものフレーバーだけを頼りに強引に書きあげた、という印象が強い。そういう作品が七本収録されている。
なかでちょっとよかったのは「蝸牛の角」で、場面転換の強引さが無意味に映像的でよかった。多分元ねたはあるのだけど。あと「大日本凡人會」は設定が面白く、なにか長編の萌芽になりそうな要素があるなという印象を受けた。全体としてはファンなら読んでみてもいいだろうけど、というぐらいの水準だった。