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『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』 川添愛著 朝日出版社,2017-06

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット  人工知能から考える「人と言葉」

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」

『白と黒のとびら』『精霊の箱』の二部作でセル・オートマトンチューリングマシン、そしてコンピュータについての見事な「物語」をものした著者が次に選んだ材料は自然言語処理だった。タイトルの通り主人公は働きたくないイタチたちで、自分たちが楽をするために代わりに働いてくれるロボットを作ろうとするのだが、どうせなら言葉がわかるロボットがほしい。そのために必要なのはなにか――というのがおおまかなストーリー。とはいえ前二作のような物語性はほとんどなく、道化役のイタチたちがロボットを作っていくにあたって突き当たるさまざまな障害を各章ごとに語っていく、というスタイルになっている。
当たり前だが、言葉がわかるというのは簡単なことではない。自然言語はひどく複雑で、それでいて曖昧で、ゆらぎが大きい。本書に沿ってあらためて考えてみると、なんと難しいものかと思う。もう少し正確に言えばなんでこれで人間は意思疎通できてるんだ、という気持ちにすらなってくる。実際、なにげない(が、正しく成立している)日常会話を録音して、あらためて文脈から切り離して聞き直してみると、やりとりされている言葉そのものは相当かみ合ってなかったりする、みたいな話も聞いたことがある。人間たちの意思疎通には言葉以外のものに依存している部分がかなり大きいのだろう。
個人的には、人工知能に関する本も少し読みかじったりしていたこともあって、この本での大きな発見は多くなかった。もっとまっさらな状態で読めばまた違った感想もあっただろうけど、少しタイミングを間違えた、というところ。初学者向け。