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『天盆』 王城夕紀著 中央公論新社,2014-07

天盆

天盆

『マレ・サカチのたったひとつの贈り物』*1で(おれに)知られる王城夕紀のデビュー作。蓋という、おそらくは近代の中国あたりの架空の国を舞台にした、天盆という架空の盤上遊戯の物語。天盆は大雑把に言えば将棋のようなゲームで、一対一の完全情報ゲームで相手の王を討つのが目的、ただし盤面は十二×十二とかなり広い。
主人公の凡天は十三人きょうだいの末っ子だが、幼いころから天盆に非凡な才能を示し、まずは年上のきょうだいを次々に打ち負かしていく。それから近所の天盆道場のようなところで頭角をあらわし、やがて地区の大会でも上位に入る。主人公は貧しく身体も小さい。他にとりえもなく、のめりこむように天盆に打ち込む。
この作品の肝は、天盆という遊戯が蓋の国においてはきわめて特別なものとして扱われていることだ。なにしろ天盆の全国大会で上位に食い込めばその者は国の要職に就くことができるのだ。考えてみると破天荒な設定なのだが、しかし同時にこの世界でも天盆の勝負に盤外の様々な要素が食い込んでくることが描かれている。権力者の息子が勝つ筋書きができあがっていて、それに乗ろうとしない凡天がぼこぼこにされるくだりがあったりする。このあたりのバランス感覚のよさが、破天荒な設定の上で繰り広げられる物語を読ませるものにしている。
それと、家族の存在がすごくいい。凡天の両親小勇と静には上にも書いた通り子が十三人あって、天盆盤になぞらえて一から順番に名前に漢数字が入っているのだけど、凡天は十三人目なので余ってしまいこの名になった。数字の名前を持つ十二人の兄姉たちはそれぞれに特技を持っていて、両親のために、あるいは凡天のために得意な技を活かして活躍する。それぞれに見せ場が用意されているのが読んでいてわくわくした。その中で誰が好きかと問われればこれはもう二秀(天盆がずば抜けて強い、凡天のメンター)であろう。まあほとんどもうひとりの主人公みたいな扱いだから好きになって当たり前なんだけど。
終盤にはいよいよ蓋の運命を左右するような状況が訪れ、凡天は天盆だけに打ち込んでいながら否応なしにその状況に巻き込まれていく。少しあっけない幕切れまで物語は緊張感を保って進み続け、読者にページを繰らせる。デビュー作でこれだけのものが書けるというのはすごいことだ。他の著作も読んでみたい。