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FIFA ランキングリニューアル

ワールドカップにかこつけて、FIFA ランキングについて。
以前 FIFA ランキングを批判したことがあって、その時に「今後また改定されるまでは FIFA ランキングはあまり真に受けないことにしよう。」と書いたのだけど、それから8年算定方法が変わっていなかった。だがようやく FIFA も重い腰を上げたようで、今回のワールドカップ明けの発表分から新方式を導入することになったらしい。


https://ja.wikipedia.org/wiki/FIFA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0
FIFAランキング -- Wikipedia


従来の方式(2006 年方式)の最大の特徴は期間ごとの試合で得られたポイントを平均することで、それが最大の欠点でもあった。弱い相手と対戦するほど、格が低い試合をこなすほど平均が下がるからだ。日本あたりだと別にランキングなんて気にしなくていいわけだが、欧州の強豪国だとそうはいかなくて、たとえばワールドカップ本選のシード国を決めるのは FIFA ランキングだから、上位を保つことにはそれなりに意味がある。そうするとワールドカップ予選で稼いだポイントを薄めないために親善試合を減らす、みたいな行動が合理的になってしまって、それはよろしくない。*1
もうひとつの特徴は、地域間補正係数があったことだ。試合で得られるポイントには(二国の属する地域の係数の合計 / 2)を乗じる、と定められていたのだ。2014 年以降の係数はこんな感じ。
UEFA: 0.99 CONMEBOL: 1.0 CONCACAF: 0.85 AFC: 0.85 CAF: 0.85 OFC: 0.85
いや、まあ、わかる。わかるぜ。今回のワールドカップの決勝トーナメント進出国の内訳見たって前二者以外はメヒコと日本だけだもんね。こんなもんだとは思う。しかし、ただでさえ対戦国のランクが得られるポイントに反映されているというのに、こんな係数を改めてかけるのは二重補正だろう。ただでさえ「平均をとる」というランキングを作るには不適当なやり方を採用しておきながら、それを無理矢理感覚的な強さに沿わせるためにこんな係数を作って補正するやり方が妥当だとはおれには思えなかったし、もっと言えばその姿勢が気に入らなかった。前回はそういうことを書いていた。


新しいランキングは Elo レーティング方式を採用している。勝てば上がる、負ければ下がる*2。強い相手に勝つほど大きく上がり、強い相手に負けた場合は小さくしか下がらない。格の高い試合ほど増減幅は大きい。地域間補正もなくなった。直感的でわかりやすい。レーティングかくあるべしと思う。
従前の数値を引き継いで、そこからの増減になっていくから、新しいやり方が実際のレートやランキングに反映されるにはしばらく時間がかかるだろう。やってみたらやってみたでやっぱりうまくいかないことはあるかもしれない。でもまあそれだったらまた直せばいいじゃないか。







ところで、ウィキペディアの日本語版に載っている新しいレーティングの計算式は明らかに間違っている。


試合前のポイント (A)
試合の重要度 (B)
国際Aマッチには8段階の重要度が設定されている。
 (引用者略)
試合の結果(C)
あらゆる国際Aマッチにおいて、勝ち:1点、引き分け:0.5点、負け:0点とする。
試合の期待結果(D)
D=1 / 10(−E/600) + 1)
E=(X代表の試合前のポイント)−(Y代表の試合前のポイント)
ランキングポイント(P)
上記までに算出された値を元に、以下の式でランキングポイントを求める[2]。
P= A+B ×(C-D)
D の式でそもそもかっこの数が合ってない。……のだが、仮にかっこを補って

D=1 / (10(−E/600) + 1)

としてもやはりどう考えてもおかしい。同レートの相手と対戦した時、すなわち E=0 の時 D=1/2 にならなければいけないからだ。これを見る限り、日本語版の記事を書いた人はこの式の意味を全く理解していないのだろう。
出典を見てみると、FIFA のサイトにある PDF が元ねたのようだ。見てみる。


We: expected result of the match
We = 1 / 10(-dr/600) + 1)
with dr=difference in ratings of the two playing teams, i.e. dr = [Pbefore of Team A –Pbefore of Team B]
おめーが間違ってんのかよ、というまさかのオチである。僕は何を信じたらいいんだ。


正しくは Wikipedia の英語記事に出ている式である。(-dr/600) は 10 の指数になるのが正しい(日本語記事ではイロレーティングの項を参照)。*3

D=1 / (10^(−E/600) + 1)

これだと E=0 の時 D=1/2 になる。

*1:余談だが、ロシヤが全出場国中最低ランクだったのは開催国は予選免除であるために比較的格の高い予選の試合でポイントを稼げなかったことも一因とされる。

*2:引き分けは、自分より強い相手ならレートが上がり、自分より弱い相手の場合下がる。

*3:残念なことに、英語版は英語版でその式の上にあるベースの数字がたぶん誤っていて、そちらは日本語版と FIFA の PDF が正しいと思われる。