タイトルの通り
葛飾北斎の伝記である。一次資料は
北斎の書簡と、存命時の
北斎を知る人の談話、と言ったところらしい。つまり著者は直接は面識はなかったようだ。
北斎に関する逸話はこの本が元ネタになっているものがわりと多く、読んでいると「ああ、これもこの本からなのか」と思う話がちょいちょい出てくる。あとは応為――お栄にまつわる話で、もちろんおれはそっちの興味で読んだわけだが、読む限りもうお栄の話ほとんど全部元ねたこの本なのな、たぶん。でめぼしいエピソードはあらかたフィクションでも使い尽くされてるみたいな有様だった。まあそもそも応為の伝記じゃないわけだしそれほど記述が多いわけでもなく、印象的な話があれば使われてるに決まってるのだが、あらためてそれが確認できたのはよかった。ひとつ気になっていたのは『
百日紅』のお栄が火事を見に行く回で冒頭にさも引用であるかのように書かれている「お栄いたって火事をこのみて……」みたいな文章だったんだけど、この本には無かった。他の元ねたがあるか、あるいはそれらしく
杉浦日向子が書いたものなのだろう。
真偽のほどとか資料的価値とかはさておき、それなりに面白かった。