黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『ハリー・オーガスト、15回目の人生』 クレア・ノース著/雨海弘美訳  KADOKAWA/角川書店:角川文庫,2016-08

いわゆるループものもいろいろある(らしい)けれど、本作もそのひとつ。作品ごとの「ループのルール」が個々の作品を差別化するわけだが、本作でのルールは、本人が死ぬとループする、本人が記憶を保持する、生まれる年と場所はいつも同じ、本人以外にも同類がたくさんいる、といったところ。他にもいくつか、たとえばループが止まってしまう条件なんかもあるんだけどそこら辺はネタバレになるので本編を読んでください。この通りかなりややこしいルールはあるんだけど、作中では主人公が人生を一回目から順に回想していく形で無理なくルールの提示がされていく。
さて、このルールだと過去へ向かって情報を伝えることができる。そもそも時間軸自体が一本じゃないのではたしてそれって過去なのかという気もするのだけど、年老いた同類に情報を伝えればその人が死んでふたたび生まれた時にもその情報を持っていることになる。これを上手く繰り返せば情報だけはどんどん過去に送ることができるのだ。この方法であることを主人公が伝えられる場面から冒頭のシーンは始まっている。主人公はその未来を回避するために、元凶となる人物と接触し、ループを用いて運命を変えていこうとする。
設定は面白いのだけど、時間軸が一本でない設定はいささか緊迫感に欠ける印象があったのと、もうひとつ、元凶となる人物が作ろうとしているものがさっぱりぴんとこないというのが個人的にはマイナスだった。実質的な不死の存在が目指す目標としてはありだなーという感じはするのだけど、SF 的観点からするとあまりにも説得力に乏しい気がした。