スーパーボウルであった。
なんだかんだ――といいつつ、レギュラーシーズンではきっちり 1st ラウンド BYE を勝ち取り、プレイオフではむしろ強い内容で勝ち上がってきたペイトリオッツに対し、才能豊かな HC と QB のもと一気に駆け上がってきたラムズ。老練な王者対若い挑戦者という図式は鮮明だったが、しかし中立地であるはずのアトランタでここまで一方的に王者への支持が強いとは、単純に意外ではあった。ラムズの選手はいきなりブーイングを浴びせられ、試合中は容赦ないクラウドノイズに晒された。
試合はディフェンシヴに展開した。ペイトリオッツの最初のドライブはいきなりランが出て思惑通りかに思われたが、いきなりブレイディがインターセプトを喫してしまう。ラムズはおそらくある程度狙っていた、アグレッシヴなテイクアウェイだった。
しかしラムズは攻撃が全く形にならない。前半蹴ったパントは実に六本。レシーバーは常にカバーされ、ゴフにはプレッシャーがかかり、ランプレイも見事なほどに止められた。ペイトリオッツの事前分析がはまったのは間違いない。敵陣に入るシーンすらほとんどなかった。
ペイトリオッツもどちらかというとおつきあいする格好で、前半は FG 一本の三点にとどまった。得点機は三回で、一回目は名手ゴストカウスキーがまさかのキックミス。46 ヤードは普段ならなんなく決める距離で、やはりスーパーボウルは特別なのだろうか。二回目は今度は FG が決まって三点、三回目は敵陣でのギャンブル失敗。というわけで、3-0 で折り返すことになった。
ハーフタイムショーはマルーン5。全く知らない人たちであった。ヴォーカルがどんどん服脱いでいくんだけどすげえがたいよくてびっくりした。あとゲストらしきラッパーの人が絵に描いたような成り上がりギャングスタの風貌でめっちゃおもしろかった。あんな人いるのかよ。
後半、ペイトリオッツにしてみればいやな流れだったと思うが、関係なくラムズのオフェンスを止め続ける。ラムズは後半最初の攻撃でパントを蹴った時点でスーパーボウルにおける連続パント記録を更新して、さらにその次の攻撃で記録を9まで伸ばした。
その次の攻撃で、やっとラムズは得点にたどり着く。ようようパスを何本か通して敵陣 29 ヤードまで攻め入り、次のプレイで一発でタッチダウンを狙うロングパス。エンドゾーン中央に走りこんだブランディン・クックスへのパス、本当に惜しかったがわずかに投げるのが遅くディフレクトされてしまう。これが決まっていればわからなかったが、逆に言えばこの試合でラムズがどうにかできたかもというのはこの1プレイしかなかった。結局 3rd ダウンではサックされて FG 圏外すれすれまで戻されてしまうが、頼れる K 、グレッグ・ズアーラインが 53 ヤードをたたき込んで同点とした。ここまでペイトリオッツを三点に抑え続けてきたラムズディフェンスは賞賛されるべきであろう。
だが均衡を破ったのはやはりペイトリオッツだった。ブレイディから左奥のグロンカウスキーへの、柔らかいタッチのロングパス! タッチダウンにこそならなかったけれど、この日の両チームを通じてオフェンスのベストプレイだった。今季限りで引退がささやかれるグロンカウスキーだが、これが現役最後のキャッチとなるのなら申し分ないと思えるほど。結局ペイトリオッツはこの試合唯一のタッチダウンまでたどり着き、10-3 と突き放した。
ラムズにとどめを刺したのはやはりディフェンスだった。ようやく機能し始めたパス攻撃でラムズはこの日二度目の敵陣に入ったが、27 ヤード地点から右奥を狙ったロングパス、これが完全に狙われていて、ギルモアがすーっと戻っていってインターセプト。結局ラムズは最後までペイトリオッツの掌中から出られなかったが、それを象徴するようなプレイだった。
このあとペイトリオッツはたっぷり時間を使って FG を決める。ラムズはここまでずっとよく守ってきたが、このあたりでは見るからに選手に疲れが見え、ペイトリオッツの攻撃を止められなくなっていた。攻撃時間の差を考えれば必然の帰結と言えよう。ペイトリオッツはタッチダウンこそ決められなかったが、2ポゼッションにして攻撃権をラムズに渡す。
残り 1:12 から、最後のワンチャンスに賭けてラムズはハリーアップオフェンスを展開するが、あまりにも時間がなさすぎた。ペイトリオッツも時間を使ってくれればパスは通させてやるという守りで、ラムズはそれに乗るかっこうで敵陣 30 ヤードまで入ったが、ゴフがスパイクした時点で残り5秒。FG を決めてオンサイドキックを蹴って成功させてやっとヘイルメリーの権利が得られる……が、ズアーラインはその FG を決めることができなかった。
ペイトリオッツがまあ強かった。今年はディフェンスの勝利と言ってさしつかえあるまい。なにしろ3点しかやらなかったのだから。内容としてもラムズを文字通り完封したといってよくて、最後のインターセプトまで含めて見事としか言いようがない。オフェンスの 13 点は普通なら少なすぎるが、今日の試合なら充分だった。ブレイディが 41 歳、さすがにこれ以上の上がり目は望めないだろうが、しかし三年前のペイトン・マニングと比較すれば元気すぎるぐらいだ。おそらくもう二三年は現役を続けるだろう。王朝がどこまで覇権を保てるか、特にひいきではないおれとしても見届けたくはある。MVP はエデルマンが受賞した。この日の内容だとブレイディにやるのもなんだしなあ、というところで選ばれたのかなという印象だったが、個人的にはディフェンスの選手にとってほしかった。
ラムズは残念だった。まだ若いのだから気を落とすことはない――とは思うが、しかし昨年スーパーボウルにたどり着いたイーグルズの戦いぶりは未だ記憶に新しいだけに、この日の挑戦者にはいささか歯がゆさを覚えたことは否めない。1st ダウンでラン、ほとんど出ず→3rd ダウンでロングが残ってプレッシャーをかけられて決められず、というパターンがあまりに目立った。もう少し目先を変えるなにかがあってもよかったのではないか。特にゴフはもっと走っても面白かったかなと思う。しかしまあ、あれだけ研究されていたらどうすることもできなかったかもしれない、とも思う。