
死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
- 作者: ドニー・アイカー,安原和見
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/08/25
- メディア: 単行本
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著者はアメリカのドキュメンタリー映画作家。職業柄、ねたになりそうな事件について調べたり探したりしているときにたまたまこの事件について知ったらしい。それでどういうわけか心を奪われてしまい、とうとう単身ロシヤに赴いて調査をするにまで至ってしまったのだという。金になるかもわからない状態で、妻と生まれたばかりの子供を置いてまで乗りこんでいったというのだから因果な商売としか言いようがないが、そういう情熱がなければつとまらないようなポジションなのかもしれないとも思う。
事件の概要は、1959 年、ウラル工科大学の学生と OB の 10 人パーティが、冬季の長期間野外キャンプ(これを山でやれば「縦走」なのだが、地形としては平地が多かったようだ)に挑み、途中体調不良で引き返したひとりを除いて全員帰らぬ人となった、というもの。それだけであれば時々起こる悲惨な遭難事故のひとつで終わっていたことだろうが、この事件の場合は遺体が発見された状況が異常だった。吹きさらしとはいえ比較的安全な場所に張られたテントから全員が飛び出し、三々五々死亡していたのである。なかなか凄惨な状況なので、それでも詳しく知りたい人は上の記事など読んでもらえればと思う。
著者の非凡なところは、実際にロシヤで一行の足跡をたどったことだ。現地で、取材当時は存命だった、パーティ唯一の生き残りにも会って話を聞いている。これは中々できることではない。足を運んだからと言って劇的に情報が増えるわけではないだろう、とは思うが、本件に関しては現地で得られる情報が余計な憶測を排除する方向にうまく向かったのではないかという印象がある。
最終的に本書の中で、著者自身が現地で見たものをもとに専門家の意見を仰ぎながら組み立てた仮説が提示される。個人的にはそんなところだろうな、という納得感の強い仮説で、既存の、あるいはネットに転がっているような有象無象の説のどれよりも説得力があると思う。もちろんじっさいに何が起きたのか、確たることは永遠に言えないに違いない。だがそれでも、本件についてなにか言おうとするのなら、まずは本書を読まないと話にならないという水準にはある。これほどまで長きにわたって謎のヴェールに包まれてきた事件についてそれだけの仮説を示せたというのは、それだけで充分に意義があることだろう。