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『海獣の子供』 渡辺歩監督/STUDIO 4℃ 製作 東宝,2019

言わずと知れた、五十嵐大介の代表作のアニメ映画化。原作はそこそこ厚めの B6 単行本五冊なので、全部は収められないだろうけどハイライトみたいにもならずに済みそうな、考えようによっては難しい尺だったが、渡辺監督は少女のひと夏の成長をどうやらメインのテーマに据えた。映像は素晴らしく、海や魚たちは想像よりはるかに美しくダイナミックに動きまくっていて、正直五十嵐大介の絵を映像化するのはかなり厳しかろうと思っていただけにこれはいい意味で裏切られた。これを大画面で見られるという点において映画館に足を運ぶ価値がある、と言ってもいいかもしれない。ストーリーも主人公・琉花の関わる部分はきちんとなぞれていて過不足はない。とはいえ、得体の知れない大きな塊のような原作を少女の冒険と日常への回帰という定型に回収してしまうことはやや残念な捉え方であったようにも思う。原作でそこかしこに差し挟まれる「海に関する証言」であったり、繰り返し語られる詩であったりというものをすべて省いてしまうことで、得体が知れないというよりはなんだかわからないものになってしまっていたのではないか。それでもおれは原作を読んでいるからまだついていけるけど、未読の人にはどうだったのだろうか(まあ余計なお世話ではあるのだが)。
面白いか面白くないかで言えば、面白くはあったし、とにかくほんとに美しかった。うーん、評価むずかしいな。