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『零號琴』 飛浩隆著 早川書房,2018-10

零號琴

零號琴

著者の第二長編。七年前に SF マガジンで連載していたのだが、連載終了後もなかなか単行本にならず、その後長い改稿を経てようやく刊行された。
物語はけっこう入り組んでいる。特種楽器技芸士のトロムボノクと相棒シェリュバンは、ある星間航海中にスカウトされて惑星〈美縟〉に降り立った。折しも首都〈磐記〉では全住民参加の仮面劇〈假劇〉が演じられようとしているところで、トロムボノクはそこで首都全体に形作られた楽器〈美玉鐘〉を演奏する役割を得たのだ。準備のために惑星を見聞するうちに、トロムボヌクとシェリュバンは異様な光景を次々に目にすることになる。資源として活用されてきたという、なかば人、なかば肉の形を持った〈梦卑〉という惑星の原生生物たち。〈假劇〉の台本を書くワンダ・フェアフーフェンはその梦卑とたわむれて恥じるところもなく、かつて全宇宙でブームとなったこども番組『仙女旋隊 あしたもフリギア!』の登場人物を大胆に台本に書き入れていく。ワンダの父であるパウル・フェアフーフェンは〈假劇〉の前哨戦である仮面劇で突如命を落とすが、宇宙一と言ってもいいほどの大富豪であるはずの彼がなぜかこのちっぽけな惑星に入れあげ、そしてその反面注意深くこの世から退場する準備をしっかり進めてきていた。この惑星でかつてなにがあったのか。この惑星はなんなのか、そこに住む〈美縟びと〉たちはいったい何者なのか。謎ばかりが散りばめられたうえで、とうとう台本が完成して〈假劇〉がはじまる。シェリュバンはその中で思いがけない大役を得ることになる。
……読んでる人、そろそろなにを言ってるんだこいつは、という感じになってるよな(ここまで読んでる人がいればだが)。まだこれでも主要な登場人物が何人か出せていない。それぐらいてんこ盛りに要素が詰まっていて、それぞれがぎっちりと絡み合っている。それでいて異常にリーダビリティが高くて読み始めればけっこうするする読めてしまうのだけど、全貌はさっぱりつかめる気がしない。山登りに来たらお花畑の中を通る歩きやすい道が延々と続いていて、時々奇岩とか異形の生物とか死体とかが普通に転がってて、いつまでも歩きやすいんだけど気がつくとかなりの高度に来ていて、でも自分が登っているはずの山の形がさっぱりわからない。いやそもそもこれって山なのか?とまで考え出してしまう。そんな感じである。
楽しく読んだのだが、実際のところけっこう時間がかかってしまった。正直なところ、作者のこれまでの作品に感じた面白さと同種のものはあまり感じられなかった。いつかまた再読したいと思うが、その時には少しは飲み込めるようになっているだろうか。