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『ジャイロモノレール』 森博嗣著 幻冬舎:幻冬舎新書,2018-09

おそらく皆さん聞いたこともないであろう言葉が書名になっているが(おれももちろん読むまで知らなかった)、これはれっきとした技術系の新書だ。ジャイルモノレールという技術について書かれた一般向けの概説書、というのがいささかまどろこしいがこの本の説明になる。ではジャイロモノレールとはなんぞやというとその名の通りジャイロでバランスを取って走るモノレールのことで、20 世紀の初めごろには普通に実用の乗り物として検討されていたアイデアだったらしい(クレイジーだ)。モノレールは二本レールと比べると摩擦そのものも少ないし内外の車輪が走る距離差で生じるもろもろの問題もないので、高速走行に向くと考えられてた時期があったらしいんだよね。ただもちろんバランスは悪いので、それを安定させるために車体にジャイロを搭載することになる。
さて、ではジャイロとはなんぞや。巨大な独楽のような装置だというのが一番近い。平たい円盤の中央に垂直に軸を通し、その軸の両端の軸受けはロの字型の枠の内側に取り付ける。そのロの字の枠を前後もしくは左右に傾けられるように別の枠に取り付ける。そしてこの円盤を高速で回転させる。そうすると、ジャイロに傾く力がかかったときに別の方向へ軸が傾こうとする力がかかり(これがジャイロ効果)、適切に装置を設計することで車体の安定をもたらすことができる。ではジャイロ効果とは……とやっているとさすがにきりがないので詳しくは本書を読んでほしい。おれの説明よりはるかにわかりやすいはずだ。

ジャイロモノレールは前世紀初頭には実機も作られていたが、結果的には早々と諦められていて、残されている実機も故障していて走ることはできない。まともな技術資料が残されていないため、近年になってから再現に成功したものはおらず、ジャイロモノレール自体がある種の伝説かなにかの間違いとすら見なされていたこともあったらしい。著者はそれを知って少し調べてみたが、原理的には可能であると確信し、実際に模型を作ってジャイロモノレールが確かに存在することを証明していく。もちろん実用的には価値がないことを承知の上で。
そのあたりの経緯は興味深いし、単純な原理にもとづく単純な構造の試作機から、だんだん大型化、複雑化していく過程をなんとなく読んでいくだけでも充分面白い。そこは流石の筆力と言うほかない。だが、せっかく読むのであればやはり少しずつでも原理を理解しながら読み進んでいく方が楽しいと思う。おれはそうやって読んでいて、途中で登場したスリップレバーの仕組みについてしばらく考えて理解できたときにはちょっと感動してしまった。「軸が一方に傾いたときにそれをより大きく傾ける」ためのシステムなのだが、実に巧みで美しい装置だった。たぶん世の中にこういうものっていっぱいあるんだと思うんだけど、目にして感動できることはけっこう少ない。

役に立たない科学技術の解説書という、存在自体がなんだか SF めいた本だけど、読みやすくてしっかりした好著だった。機械が好きな人や著者のファンはもちろん、そうでない人にも楽しめるものと思う。