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『ダークウェブ・アンダーグラウンド -社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち-』 木澤佐登志著 イースト・プレス,2019-01

インターネットのアンダーグラウンドの話。
冒頭の話が面白かった。WWW上の情報のうち、google で検索できる範囲、つまりだれでも閲覧できる情報はもはや 4% ぐらいしかないのだそうだ。これを表層ウェブと呼ぶ。あとの 96% がディープウェブで、たとえばツイッターやフィエスブックの鍵付きアカウントとか会員制サイトとかそういうやつで、そこには google の検索の手は及ばない。実はおれは表層ウェブが半分以上だと思っていた。それこそおれがインターネットに足を踏み入れたころなら比率は逆だっただろうけど、それにしたって 4:96 というのは想像をはるかに超える数字だった。インターネットはもはや囲い込まれてしまったのだ。
ダークウェブはそのいずれにも含まれない、地面の下の世界だ。通信は暗号化され、高い匿名性が保たれる。だがその広さは表層ウェブやディープウェブに比べればごく小さいものだと筆者はいう*1。さもありなんと思う。特殊なソフトウェアがなければアクセスできないのだが、逆に言えば適切なソフトウェアさえ準備すればだれでもアクセスできる。その意味ではダークウェブは自由で開かれている。
ダークウェブにあるのは、非合法の市場やペドファイル御用達のポルノサイト、あるいはスナッフフィルムといったもので、反社会的な勢力や情報が幅を利かせている世界……らしい。とはいえ、表層ウェブに比べてものすごく恐ろしいところというわけでもないようだ。それもそうだろう。表層ウェブにも詐欺やポルノはあるし(さすがに拳銃はあんまり売ってなさそうだが)、下手なサイトで下手なものをダウンロードすればウイルスに感染することもある、という話で、それはどのレイヤーでも本質的な差はない。

前半はダークウェブにまつわる「こんな話があったよ」的な事例紹介が多く、これはまあまあ興味深い。その話を枕に、後半はダークウェブのおおもとにある思想についての考察がなされていく。なぜ暗号化や匿名性が必要なのかといえば、自由を守るためなのだ。国家の検閲や盗聴、あるいは資本家があらゆる情報を握ってしまうことから、ユーザーが守られるために必要な手段と位置づけられているからだ。Netrunner かよ。
そこからはダークウェブからやや離れて、ネット上のカルト的な思想とか潮流とかの話になっていくのだけど、個人的にはこの辺はあんまり……という感じだった。たぶんこのあたりがおれの限界ではあるのだろう。本としてはこっちが本番ではあるので、こちらを面白いと思える人でないとあまり読んだ甲斐があるとは思えないのではないかな。同じダークウェブに触れた本ということであれば、以前読んだ『フューチャー・クライム――サイバー犯罪からの完全防衛マニュアル』(おれの感想→https://natroun.hatenadiary.jp/entry/20160627/p1*2の方がだいぶ好み。

*1:具体的なパーセンテージは書かれていないが、おそらくまあ正確なところはわからないのと、実際取るにたらない数字なのだろうと思う。

*2:この本の中では「ダークネット」という言葉が使われていた。